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街で屋台を眺めてみます
知らない間にそんなものになっていたとは
しおりを挟む数日後、アローナが侍女たちと王宮の図書館に行こうとしていると、酒壺を運んでいる男たちと出会った。
その格好からして、砂漠の男たちのようだ。
白い壁沿いで、一列に並び、アリのように勤勉に運んでいる。
「……頭じゃないですか」
とアローナは先頭に立ち、酒壺を抱えている男に向かい言った。
「おお、アローナではないか」
と言う頭は、その酒壺を離宮に運ぶように指示し、こちらに向かい、やって来る。
……そういえば、頭たち、レオ様とともに去ってったんだな、とアローナが思っていると、
「いや、お前の兄からレオ様に酒を贈ってくれると連絡があったらしくて」
と頭は言う。
今回のこととは関係なしに、すでに手配してくれていたらしい。
「レオ様が、途中までこちらから取りに伺いますと言えというので。
そう連絡して、我らが取りに行ったのだ」
いや、レオ様。
どんだけ急いで呑みたかったんですか……と思うアローナに頭は、
「こちらに向かって運搬中のアッサンドラの隊に合流したら、早いと驚かれたぞ」
と誇らしげに言う。
「さすがですね、頭」
とアローナは言ったが、頭は、
「そうだ、アローナ。
此処は離宮とはいえ、王宮だ。
頭とか呼ばれるのはよくないとレオ様がおっしゃるので、此処に居る間はステファンと呼んでくれ」
と言ってきた。
……すっかりレオ様に飼い慣らされてるな、と思いながら、
「では、ステファン様」
とアローナが言うと、
「ステファンでいい。
そう呼ばれたら、俺もお前のことをアローナ様と呼ばなきゃいけなくなるじゃないか」
と頭は言う。
「そんな、一緒に旅した仲じゃないですか」
水臭いですね~、などと言って笑い合ったが。
……そういえば、この人に連れ去られたせいで旅がはじまったんだったな、とアローナは思い出す。
だがまあ、あまり細かいことは気にしない性格なので、そのまま流した。
「それにしても、ステファンって名前だったんですね」
「違うぞ」
と頭は言う。
「こんなところで本名を使うわけないじゃないか。
ちなみに、こいつはステファン2」
と頭が酒壺を運び終わったと報告しに来たごつい男を紹介して言い、
その男が更に横に居た男を紹介して言った。
「こっちはステファン3です」
じゃあ、向こうに居るのが、4と5ですね……とアローナが思っていると、
「親愛なる頭と同じ名前です」
と彼らは嬉しそうだった。
いや……、ツーとか、スリーとか呼ばなきゃいけなくなるので、ちゃんと考えてくださいよ~、とアローナが思ったとき、スリーが言ってきた。
「でも、新しい名前考えるって楽しいですね、リーダー」
頭に言っているのかと思ったのだが。
どうやら、アローナに向かって言っているようだった。
ごついツーも後ろを振り返り、
「おい、新入り、この方がうちのリーダーだ」
と遅れて現れた、おそらく、ステファン6に言っている。
……リーダー。
あの場だけの呼び名ではなかったのですね、とアローナが思っているところにジンがフェルナンたちを従え、やってきた。
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