貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

菱沼あゆ

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そして、また夜がやってきた

どうした、報復に行くのか?

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 娼館に、なにしに行くんだとジンに問われたアローナは言う。

「助けられたお礼がしたいのです」

「売り飛ばされた報復じゃないのか」

「いや、美味しかったので、粥」
とアローナが言うと、ジンは一瞬、考えたあとで、

「……わかった。
 必ず誰か連れて行けよ」
と言ってくれた。

「大丈夫です。
 アハト様がついてきてくださるそうです」
とアローナが背後に控えていたアハトを手で示すと、ジンが驚愕する。

「もうアハトを配下に置いているのかっ」

 いや、配下になど置いていませんけどね、とアローナは思っていたのだが。

 後ろからアハトが、
「まっこと恐ろしいお妃様でございます。
 わたくし、すでにいいように使われております」
とジンに向かい、訴えていた。



 アローナはアハトとともに馬車に乗り、出発した。

 金色の派手な馬車だ。
 護衛もついている。

「襲われませんか、これ」
とアローナは言ったが、

「王室の紋章が入っているので、逆に襲われないです。
 メディフィスの報復は恐ろしいので」
とアハトは言う。

「でも、今、メディフィスを仕切っているのは、ジン様ですよ」

 大丈夫ですか?
 舐められてないですか?
とアローナが言うと、

「……たぶん、この世界でもっともジン様を舐めているのは貴女ですよね。
 まあ、どんな勇猛な男も嫁には頭が上がらないものですが」
とアハトは、しみじみと言ってきた。

「ま、ジン様はやさしすぎるのが玉に瑕ですが、あれでなかなか強く賢い男ですよ」
とジンを売り込むように言ってくるので、

「アハト様は、ジン様と敵対しているのではないのですか?」
と小首を傾げてアローナが問うと、アハトは言う。

「人として、王として、認めているからこそ、厄介なのです」

 そして、馬車からチラと外を見て、
「買いましょうか? 菓子」
とアハトは訊いてくる。

 あのときと同じ屋台が、今日もカラフルで美味しそうな焼き菓子を売っていた。
 


「行ったか、アローナは」

 王宮の廊下を歩きながらジンは言う。

「はい。
 アハト様がついて行かれたので問題はないと思いますが」
と言うフェルナンをチラと振り返り、

「ずいぶんとアハトを信用するようになったもんだな」
と言うと、

「信用してますよ、最初から。
 おのれの権力のためなら、なんでもする人ですから。

 今、アローナ様に上手く取り入ろうとしているところなんで、アローナ様のことはちゃんと守ってくださると思いますよ」
とフェルナンは言う。

 つい、渋い顔をしてしまうと、
「でもまあ、パッと見、アハト様の方がアローナ様にいいように使われてますけどね」
と言って、フェルナンは笑った。

「……シャナもいればよかったんだが。
 あいつ、いなくていいときはいるくせに。
 
 こういうときはいないからな」

「ご自分が前王のところにやったんじゃないですか」
と言うフェルナンに、

「そうなんだが。
 雇いたくないときは雇え雇えとうるさいくせに、今だっ! ってときにはいないなと思って。

 今なら、シャナが二人いたら、二人雇いたいところなんだが」
と言う。

「まあ、なんだかんだで大丈夫ですよ、アローナ様は。
 だって、砂漠でさらわれて、娼館に売られたのに、ちゃんと目的地まで。

 ジン様のところまでたどり着いた人ですから」
とフェルナンは笑ったが、ジンは、

 いや、あいつの本来の目的地は、父のところなんだが……と思っていた。



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