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謎の男に買われました

そうか、お前の正体はっ

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 大きな鳥がこちらに向かい、飛んできた。

 アローナとジンの間に割り込んできたそれは、鷹だった。

 旅の途中の連絡用にと連れてきていた伝令用の鷹だ。

 アローナが消えたことを伝えてくれたのも、この鷹だろう。

 アローナはこの鷹と庭でよく慣れ親しんでいた。

 それで、今もアローナを助けてくれたのだろう。

 鷹の足に伝令文はついていない。

 ということは、旅の一団はもうかなり近くまで来ているのだろう。

 伝令の鷹がアローナの肩に舞い降りるのを見たジンは、ハッとしたように、アローナを見て言った。

「そうか、お前の正体はっ」

 そうです!

 私の正体は!

鷹匠たかじょうっ!?」

 違います……。

 そのとき、
「お逃げください!」
と声がした。

 階段の方を見ると、フェルナンが急いで階段を駆け上がってくるところだった。
「その娘、その鷹でジン様を殺すつもりかもしれません!」

 いや、どうやって…と思うアローナの横で、
「どうやってだ」
とジンが訊く。

「……少々お待ち下さい」
と言うフェルナンは、どうやって鷹で殺せるのか考えているようだった。

 小首を傾げたあとで、フェルナンは自信なさげに、
「た、鷹に頭をくわえさせて放り投げる、とかですかね?」
と言ってきた。

 いや……この人、重すぎるんじゃ、とアローナは頭の中で鷹にジンをくわえさせながら思う。

 それなら、どん、と私が此処から突いた方が簡単確実じゃないだろうか、と思いながら、ジンを見て、塔の端を見て、下を見る。

 フェルナンが、
「ほら、この娘。
 なにやら、恐ろしいことを考えてそうですよ」
とアローナの視線を追って言ってきた。

 うーん。
 あとは……

『鷹に武器を持って来させる』とか?
とアローナはジェスチャーでフェルナンに示す。

『王の』

『頭の上で』

『ポイ、と剣を高い位置から』

『落とさせる』

 ひー!
とフェルナンと、ちょっぴりジンも震え上がった。

「や、やはり恐ろしいですっ、この娘っ」
とフェルナンがアローナを指差し言う。



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