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隠し神

行動が怪しいふたり

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 那津が扇花屋に行くと、遊女たちが並んで客を待っている総籬そうまがきのところが異常な人だかりだった。

 よく見れば、何故か、その中に明野が居る。

 いや、二代目明野、どうしたっ?
とみんなざわめいていた。

 昼見世の張見世はりみせに高級遊女が出てくることなど、まずないからだ。

 なにをしているのかと思ったら、よく当たる手相占いのおじさんに自分も手相を見て欲しいようで。

 他の遊女たちと一緒に格子の隙間から手を差し出そうとしていたが。

 その占い師の力は本物のようで。

「いや、私はあなたのような方を見ることはできませんっ」
と怯えて逃げられている。

 占い師の目は、咲夜の後ろを見ていた。

 那津は溜息をつき、
「なにをやってるんだ」
と咲夜に言う。

「占い師を脅かすな」

 勘の鋭いその男は、咲夜の周りにまとわり憑いている者たちに圧倒されていたようで。

 那津に、ありがとうございます、とペコペコ頭を下げて逃げていった。

 咲夜の未来を占うことで、彼女に影響を及ぼそうとしている霊たちに絡まれたくないのだろう。

 桧山にも、あんな感じのがいっぱい憑いてるんだが。

 あれは自分で押さえ込めているからな。

 まあ、どちらにしても、桧山はもう、おのれの未来を占ったりはしないだろう――。



 中に戻った咲夜は、内所で待っていた。

 咲夜も知っているものと思い。

 いつぞや、桧山に聞いた、彼女が子どものころしてもらったという占いの話をしたが。

「姉さんがそんな話をしたの? あなたに?」
と咲夜に眉をひそめられた。

「兄様かあなたか、どちらかは姉さんに持ってかれそうだわ……」
と咲夜は不思議なことを言う。

 そのとき、外からこちらを覗いているものがいるのに気がついた。

 先程、総籬の近くに先に居た男だ。

 こちらを覗き込んで、連れの男たちに止められている。

 小柄で町人風の着物を着ているが。

 特に特徴のない顔なのに、何処か、ただ者でない感じがした。

 なにかの罪を犯していそうな、緊張感をまとっている。

 ……まあ、そんな奴、此処にはたくさん居るからいいんだが。

 何故、この男、俺をあんなに睨んでるんだ?

 那津は知らなかった。

 その男、七郎が、

 この男、今度は明野様と~っ、と思いながら、那津を睨みつけていたことを。

 そんなくだらないことで喧嘩を売ってきているとは思わなかったからだ。

「ちょっと待ててくれ」
と那津は咲夜に言い、外に出てみた。

 内所の左衛門は、いや、気軽に出たり入ったりするな、という顔をしていたが。

 那津が、明るい通りに出ると、七郎は、さっきまでの威勢のいい顔つきは何処へやら。

 那津から少し後ずさる。

 近くに行くとより顕著になるのだが。

 体格がかなり違ったからかもしれない。

「おい、お前はなにも……」

 那津が言い終わる前に、向こうが言う。

「てめえは何者だっ?
 さっきから見てれば、愉楽様に、明野様にと渡り歩いてっ。

 しかも、金も持たずにっ」

 そこへお糸が通りかかった。

「あっ、那津様っ」
と頬を赤らめる。

「ちょうどよかったっ。
 これお団子ですっ」
と何故かお団子を那津に押し付け、走っていなくなってしまった。

「お、お糸ちゃんまでっ。

 てめえっ。
 一体、何者だ~っ」

 いや、お前が何者だ……と那津は思っていた。


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