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ポイッと捨てられました

クラウディオの告白

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 地下牢前に連れて行かれたセシルは、苦悩しながら、自分の方が檻に入っていってしまいそうな、クラウディオを眺めていた。

「あのー、無理して悪い人になられなくとも」

「だが、悪魔でなければ、お前を連れされぬっ」

「いや~、あれ、王子が適当に言ってるだけなんで。
 そもそも、ほんとうに呪いの悪魔の木なのかどうかも怪しくて」

「確かに。
 私もそんな話は聞いたことがない」

 何処か違う土地の話と間違えたのではないか? とクラウディオは言う。

「あるいは、そんなことを適当に言って、お前をあそこに放り出し。
 反省したか? とかなんとか言い、颯爽と格好よく連れ戻しに来るつもりなのではないかっ?」

 初めての恋に我を失っている男、クラウディオは妙に勘が良くなっていた。

「そんなこともないと思いますけど。
 同じ木が、悪魔の木だったり、伝説の木だったりするのは、ちょっと妙ですね。

 クラウディオ様がおっしゃっていた伝説の木の話の方はほんとうなのですか?」

 そう問うと、クラウディオはちょっと困った顔をする。

 チラ、と窺うようにセシルを見たあとで言った。

「ほんとうにそういう伝説があるとは聞いている。

 ……あの辺りの木のどれかがそうなんだ」

 どれなんだ……。

「それがどれなのか、私にはわからない。

 だが、私にとっては、お前が立っていたあの木こそが伝説の木なのだ。

 その証拠に、あの木の下に立つお前の姿は光り輝いて見えたっ。

 だが、お前がとなりの木の前にいても、私の目には光り輝いて見えたに違いないっ。
 ということは、やはり、伝説の木などないのやもしれぬっ。

 いやっ、なくてよいっ」

 クラウディオはそう言うやいなや、セシルの手を握ってきた。

「木の呪いでも、伝説でもない。
 私はそんなもののチカラを受けずともっ、お前を愛しているっ」

 いや、さっき、出会ったばかりなんですけど、とセシルは思っていたが。

 恋というのは、そういうもの。

 思っているよりも簡単に、そして、唐突に訪れるものだし。

 セシル自身、握られた手を振りほどこうという気も起きなかったので。

 出会ったばかりの、この愉快な領主様に、いつの間にか好感を抱いていたのに違いない。

「……ありがとうございます」

 少し照れたようなセシルのその言葉に、俯きがちだったクラウディオが顔を上げかけたとき、急いで石段を駆け降りてくる音がした。

 若い従者が血相変え、やってくる。

「クラウディオ様っ。
 今、早馬が知らせに参ったのですが。

 近々、王子がこちらにいらっしゃるそうなのですっ」

「王子がっ?」

「それと、山の悪魔の木の前にいる娘を見張っていて欲しいと」

「……王子がここに。
 そこのところは当たってましたね、クラウディオ様」

 悪魔はやめて、予言者になられては? とセシルは言う。

「それにしても、王子はなにしに来るんですかね?」
とセシルが呟いたとき、別のところから返答があった。

「セシル様が婚約破棄を取り消してくれと泣きついてくるところを見たいみたいですよ」

 漆黒の髪の騎士、バレルが靴音を響かせ、石段を下りてくる。

「王子に言われて、ここの領主に知らせを出したのですが。
 いても立ってもいられず、早馬を追い抜いてきました」

 じゃあ、なんのために出しました、早馬……。

「……それにしても、まさか、こんなことになっていたとは。
 もっと早くに来るべきでした」

 バレルはセシルの手を握るクラウディオを見、眉をひそめる。

 いや、どんなことにもなっていませんが……。

 ただ、地下牢に入れられそうになってただけですよ、とセシルは思う。

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