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蘇りの書

ハイビスカスの陰

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 三時頃、病院に戻った真生は、病棟の廊下で百合子に出会った。

「どう? 楽しかった? 百貨店」
と訊く彼女に、はい、と包みを渡す。

 彼女は、すぐに開けてみていた。

「あら、資生堂の香水じゃない」

 現代の友人たちに見せたら、アンティークでいい趣味ね、と言いそうなガラス瓶に入っている。

 百合子は蓋を開けて嗅いでみていた。

 なにかこう、なんでも行動が早いな、と真生は苦笑する。

 この人なら、なにがあっても、野生の勘で逃げ延びそうだなと思ってしまう。

「そういえば、資生堂アイスクリームパーラーにも行きましたよ。

 三越の食堂で、お子様ランチを食べてみたかったんですが、高坂さんに止められちゃって」
と言うと、当たり前でしょ、という顔をされる。

「うらやましくなんてないわよ。
 私もそのうち、お金持ちの男を捕まえて、優雅に暮らすんだから」

「あれ? 看護婦さんはやめちゃうんですか?」
と言うと、百合子は無言でこちらを見たあとで、

「……やめないわよ」
と言ってきた。

 笑ってしまう。

 今も昔も、人って変わらないな、と真生は思った。

 そうでないように見える人でも、信念を持っていて生きていたりする。

 
 

 外に出た真生は、白いシャツを着た、一見、高坂風の男に出くわした。

「あら、斗真」
と言うと、中での会話が聞こえていたらしく、

「なにが資生堂アイスクリームパーラーだ」

 優雅にやってるじゃないか、と言い出す。

「その服、高坂に買ってもらったのか?」
とふんわりとスカート部分の広がったクラシカルなワンピースを見て言ってきた。

「そう」

「まるで愛人だな」
と言われたので、

「まあ、間違ってはいないわ。
 ここに居る人たちは、みんなそう思ってるから」
と答える。

「……それでいいのか」

「いいも悪いも。
 実際の私は愛人とは程遠いけどね。

 ここの人たちがそれで納得するのなら、いいんじゃない?

 斗真、隠れて」

 真生は廃病院の方の庭先にうごめくものを見た。

 あのハイビスカスの陰だ。

 どうも、高坂の部屋を覗いているようだった。

「変ね。
 百合子さんは、まだ病院に居たし……」
と呟くと、おいおい、という顔をするが、いや、実際、前、あそこから百合子が覗いていたしな、と思っていた。



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