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金の王子か、銀の王子か
おそろしいダンジョンのようだ
しおりを挟む日が落ちる前、尊はなにも言わずに、高速に乗り、走り出した。
鈴もなにも言わなかった。
いや、言った。
「あ、めかり」
「寄るか」
「いや、いいです」
くらいのものだったが――。
今、
「このまま帰るんですか?」
なんて無粋なことは訊きたくない気がしていたし。
無理に話さなくとも、この沈黙が苦痛でなかった。
ただ、目の前に広がる真っ直ぐな高速道路が何処につながっているのか考えると、少し恐ろしくはあったのだが……。
地元が近づいてくると、夜も更けてきた。
一般道に降り、尊が口を開きかけたとき、鈴は道の両脇にある街灯の明かりを見ながら言った。
「清白の家で」
「いや、まだ、なにも言ってないんだが……」
と尊は言うが。
尊がまず、鈴の実家に行くか、征のところに行くか、迷っているのはわかっていた。
少し考えたあとで、尊が、
「……いいのか?」
と訊いてくる。
「はい。
遠回りするより、まず、敵の中心部に攻め入ったほうがいいかと思うので」
と言うと、
「城でも落とす気か」
と言われたのだが。
結局、尊は清白の家に向かうことにしたようだった。
「あの家、人口が少ないときは少ないんだが。
今は多そうだぞ」
と尊が数志からの情報を思い出しているのか、眉をひそめて言ってくる。
今は、敵が多く屋敷の中に存在しているということだろう。
おそろしいダンジョンのようだな……と思いながら、そうですか、と鈴は言った。
「そいえば、見合いから式まで、怒涛の展開だったので、あまり清白の家にはお伺いしてないんですよね。
だから、尊さんとも顔を合わせてないんですかね?」
「いや、俺は、征に後継者の座から追い落とされてからは、他のマンションで暮らしてたから」
まあ、粘るより、あっさり出て行きそうな人だよな、と思う。
窪田さんも、尊さんがあまりに抵抗しないので、イライラしたとか言ってたらしいし。
……よくこの人、私を誘拐しようと思ったな、と思ったとき、尊が、
「着いたぞ」
と言った。
長い塀が続く。
清白の大邸宅はこの向こうにある。
鈴の家は、家に使用人を入れたくない母親が、
「誰が掃除するのよ。
大きな家は嫌よ」
と言ったせいで、夢見ていた洋風の屋敷も、此処まで大きくはないのだが。
さすが、執事長まで居るという清白の屋敷は西洋の美術館かという雰囲気だ。
車が近づくと門が開く。
車を清白家のフィアット500に乗り換えていたせいなのか。
もう動向が知れていて、来るのを待っていたのかは知らないが。
電動でゆっくりと開いた鉄の柵を通り抜けたあと、振り返りながら、鈴は言った。
「なんか地獄の釜のフタが開いたみたいですね」
あ、しまった。
尊さんの生家だっけ、此処。
地獄の釜とか言っちゃったよ、と思ったのだが、前を見て運転している尊は、鈴以上に渋い顔をしていた。
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