上 下
49 / 77
金の王子か、銀の王子か

叩き起こせばいいじゃないですか

しおりを挟む
 
 鈴は征に電話したんだろうか、とか考えていて、長湯になってしまった。

「もう出ますよっ」
と数志に怒られ、離れに戻った尊は、迷いながら中に入った。

 自分が帰ったときのためか、玄関にも部屋にも明かりはついていたが、鈴の姿はない。

「……鈴」
と呼びかけ、露天の方を見たが、明かりはついていなかった。

 まさか、と思い、寝室を開けてみる。

 二つあるベッドのうちの片方で、すやすやと鈴は眠っていた。

 何故寝ている!

 今日が最後の夜なんだぞっ、鈴!

 さっき、帰りません! と言ってくれたときには、俺のこと好きなのかなとか期待してしまったのに!

 人が迷い、恥じらっている間に寝るなー!

 数志の、
「叩き起こせばいいじゃないですか」
という声が聞こえた気がしたが。

 いや、可哀想だろうがっ! と思う。

 だが、待て待て。

 一足飛びはいかんな、と落ち着こうとする。

 まだキスもしていないのに。

 そうだ。
 キスだけでも……と思って、気がついた。

 そういえば、鈴は征と式のとき、誓いのキスをしたんだろうか。

 俺が行ったのは、奴らがキスする前だったのか、後だったのか。

 前?
 後?

 前っ?
 後っ?

 ステンドグラスのきらめく教会で、真っ白なドレスを着た目の覚めるような美しい鈴が新郎、征に口づけられている場面を妄想する。

 とても綺麗な光景ではあるが、俺は見たくないっ、と思う。

 鈴っ。
 前だったのか、後だったのかっ。

 どっちだっ、鈴っ。

 前?
 後?

 前っ?
 後っ? と考えていたら、何故かぽすの前足、後ろ足が交互に頭に浮かび始めた。

 いかん。
 動転してきた……。

 尊は、本館の廊下を歩き、その部屋のチャイムを鳴らした。

 ドアが開かないまま、インターフォンから声がする。

「来ましたねっ。
 来ると思ってましたよ!

 泊めませんよっ!」
と数志が叫ぶ。

「てか、女子が忍んでくるならともかくっ、男はお断りですっ。
 さっさと帰って、鈴様と最後の夜をお過ごしくださいっ」

「だって、鈴、寝てるんだっ」

「叩き起こしなさいっ」
と案の定、数志は言ってくる。

「あんな可愛い鈴になにかするとか可哀想だろうっ」
とすやすや眠っていた鈴を思い出しながら、深夜なので、抑えた声で叫ぶと、

「貴方が可哀想かわいそがってるうちに、征様がなにかしますよっ。

 っていうか、鈴様、あんなだけど、ちゃんと生身の大人の女性ですよ。
 早く手をつけないと、誰かがつけますよっ。

 征様とか、俺とか、窪田さんとかっ」

「なんかいろいろ混ざってるぞっ!?」

「遊びで手を出す男もいるって話です。

 それくらいなら、深く鈴様を愛している貴方にどうにかされた方が鈴様も本望でしょうっ。

 俺は明日早いんですっ。
 おやすみなさいっ」
と言って、数志はブツッとインターフォンを切ってしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ
キャラ文芸
「この俺が結婚してやると言ってるんだ。  必ず、幸運をもたらせよ」  入社したての桐島葉名は、幸運をもたらすというペペロミア・ジェイドという観葉植物を上手く育てていた罪で(?)、悪王子という異名を持つ社長、東雲准に目をつけられる。  グループ内の派閥争いで勝ち抜きたい准は、俺に必要なのは、あとは運だけだ、と言う。  いやいやいや、王子様っ。  どうか私を選ばないでください~っ。  観葉植物とお片づけで、運気を上げようとする葉名と准の婚約生活。

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

今更だけど、もう離さない〜再会した元カレは大会社のCEO〜

瀬崎由美
恋愛
1才半の息子のいる瑞希は携帯電話のキャリアショップに勤めるシングルマザー。 いつものように保育園に迎えに行くと、2年前に音信不通となっていた元彼が。 帰国したばかりの彼は亡き祖父の後継者となって、大会社のCEOに就任していた。 ずっと連絡出来なかったことを謝罪され、これからは守らせて下さいと求婚され戸惑う瑞希。   ★第17回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました。

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...