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ゼロどころか、マイナスからの出発

一番恐ろしいものは……

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 一日、動物園で楽しんだあと、みんなでちょっと早めの夕食を食べようと車で移動することになった。

 寿々花が、
「私は真希絵さんちの車に乗せてもらうことになったから。
 あなたは、あかりさんと日向を乗せていきなさい」
と青葉に言う。

 ……なんでしょう、その家族三人でドライブみたいなの、とあかりは照れる。

「よ、よしっ。
 じゃあ、行くか」
と青葉は張り切って日向のチャイルドシートを自分の車の後部座席に付け替えていた。

 カンナがいいお店を知っているというので、予約してもらい、出発する。

 先頭がカンナの乗る来斗の車。

 次が幾夫の車。

 そして、青葉の車だ。

 まあ、はぐれても店の名前と場所は聞いているので大丈夫そうだったが。

 それにしても、こうしていると、普通の親戚の集まりみたいだな、とあかりは思う。

 青葉の事故も、記憶喪失も。
 そして、それにより生じた寿々花との確執も――。

 なにごとも起こらないまま、夫婦となり、家族になれた未来。

 それがいきなり、自分の目の前に、ポンと現れたような気がして、あかりは、ちょっと泣きそうになった。

 日向は、そんなあかりの横で、初めて乗る青葉の大きな車に、はしゃいでいる。

「あっ、うさぎだっ!
 うさぎがいるよっ」

 窓の外を見て、日向が叫んだ。

「そこだよ、そこっ」
と日向は言うが、こんな街中に野良うさぎがいるとも思えないのだが。

 日向にしか見えない幻のうさぎがいるのか。

 それとも、まだ動物園の気分が抜け切っていないのか。

 そうあかりが思ったとき、青葉が言った。

「ああ、ほんとだ。
 ウサギがいるな」

 ――!?

 日向にしか見えない幻のうさぎではなく。

 私にだけ見えないうさぎがいるっ!?
とあかりは思ったが、ちょうど赤信号で止まったので、さっきの地点を振り返ってみると、

 なるほど。
 工事中のところに立っているバリケードが、一箇所だけ、うさぎになっていた。

「あ~、うさぎ……」
とあかりは苦笑いする。

「最近、動物のやつ、よく見るよな」
と青葉が言った。

 日向がファンタジーの世界にいるのかと思ったけど。

 私より、よほど現実的だったな……。

 そんなことを思いながら、あかりは、笑った顔のまま工事現場に並んで立っているピンクのうさぎたちを見た。
 

 緑あふれる木々の向こうに、コンクリート打ちっぱなしの四角い建物があった。

 大きなガラス窓からはウッド調の落ち着いた店内が見える。

「こういうコンクリートむきだしの建物、好きじゃないんだけど。
 ここは、いい雰囲気じゃない」
と寿々花も機嫌がよかった。

 まあ、日向がいるからかもしれないが。

 先頭のカンナが扉を開けて入ると、黒いベストにタイトスカートの女性の店員さんが、にこやかに現れる。

「満島です」
とカンナが言うと、優雅に微笑み、

「お待ちしておりました、満島様。
 八名様ですね」
と言ったあとで、その店員さんは、全員の後ろの方を見て、おや? という顔をする。

「あ、九名様ですか?」

 えっ? と全員が振り向いたが、誰もいなかった。

「……霊っ!?」
と来斗が怯え、

「大吾っ!?」
と青葉が怯える。

 じゃあ、一番怖いのは、『大吾さんの霊』だな、とあかりは思った。

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