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運命が連れ去られました
実は俺より不器用なのでは……?
しおりを挟む記憶の中の青葉さんを大吾さんとすり替えるとか。
無理に決まってる――。
静かになった店内で、あかりはあのランプに火を入れ、そのゆらめく炎を見つめる。
頬がほんのり熱くなった。
「……そもそも、青葉さんとすり替わってどうするんだろうな。
いきなり消えた青葉さんの印象よくないのに」
あかりがそう呟いたとき、青葉っぽい男がやってきた。
今度は間違いなく青葉だろう。
大吾みたいにスーツの肩が異常に張ってないから、というだけではなく、青葉だとわかった。
よく似た顔だが、青葉の方が少し柔和な感じがする。
そのとき、ふとあかりは思った。
この二人の区別がついていない人が何処からか見ていたら。
この店の常連客はこの一人しかいないのかと思われそうだ。
いいえ、とりあえず、二人います。
いや、よく考えたら、どっちもなにも買ってくれてはいないんだが……。
「日向はいるか」
そんなことを言いながら、青葉はやってきた。
いや、何故、日向……と思っていると、
「取引先から、木のおもちゃもらったんだ。
俺はもう遊ぶ年じゃないからやる」
と机の上に手作りらしい、ちゃんと連結している木の電車を置いた。
……俺はもう遊ぶ年じゃないからと言うのは、笑うところなんだろうか、と思いながら、あかりは、
「ありがとうございます」
と素直に感謝して受け取る。
「よくできてますね」
「うん。
専務が趣味で作ってるんだそうだ。
お孫さんたちにも配ってるらしい。
やっぱり、木のおもちゃがいいだろうって」
へえーとあかりは微笑ましくそれを眺めた。
「確かに木のおもちゃって手触りいいですよね。
うちの店にも似合いそう」
杉沢専務、ありがとう。
この店に来るいいきっかけをくれて、と青葉は取引先の専務に感謝していたが。
たまたま思いついて寄ってみた、という雰囲気を醸し出すために、顔には出さないようにした。
あかりは木の電車を見て喜んでいる。
よし、今だ。
青葉はさりげなく、
「お前の弟とカンナ、どうなった?
会社で本人には訊きづらくてな」
と言おうとした。
そこから、更にさりげなく、大吾の話に持っていこうと思っていたのだが。
心の中で予行演習していたにも関わらず、
「お前と大吾、どうなった?」
と何故だか本音がもれていた。
あかりは、きょとんとし、
「いや、どうもなってませんけど」
と言う。
「……何処かに誘われたりとか」
ああ、とあかりは笑う。
「呪いの村に誘われました」
……あいつ、実は、俺以上に不器用なんじゃないか? と青葉は思った。
そのとき、近くまで来た寿々花はちょっと足を伸ばしてあかりの店に来ようとしていた。
お友だちとワインと軽食で楽しんだあとだったので、車ではなかった。
たまには歩くのもいいわね、とよく手入れされた街路樹を見上げながら歩いていると、向こうから、
「ぐらんま~」
と日向がやってくるのが見えた。
日向は真希絵とこの辺りを一周して戻ってきたところだった。
まあ、なんて運のいい、と寿々花は喜ぼうとした。
だが、店内に何故か青葉がいるのが見えた。
大吾だといいなと思ったが、確実に青葉だった。
さすがに我が息子は見間違えない。
たぶん、あかりでも普段は間違えないだろうと思う。
あのとき、あかりが大吾を青葉だと思ったのは。
そもそも、彼女は、大吾という、そっくりな従兄がいることを知らなかったし。
青葉がいきなり消えてパニック。
妊娠がわかってパニック。
消えたはずの青葉が、母親と乗り込んできてパニック。
しかも、どうせ私のことなんて、遊びだったのでは、という不安。
そういう状態だったので、普段なら間違えないだろうに。
大吾を青葉だと信じてしまっただけだろう。
まあ、それはともかく、青葉がこちらに気がついた。
知らんぷりをするべきだ、と寿々花は思った。
だが、キラキラした可愛い目で日向は駆けてくる。
「ぐらんま~」
と愛らしい笑顔で、銃をフリフリやってくる。
銃ではもう撃たないで、グランマが悪かったから、と多少のトラウマを抱えながらも、寿々花は結局、日向と他人のフリはできなかった。
寿々花はこちらに向かい、やってくる日向に言った。
「元気にしてましたか? 日向」
青葉がもうドアを開けてそこにいること、わかっていたのに――。
孫というのは、この私ですら理性を失うほど可愛いのだな。
そう実感しながら、寿々花は、出会い頭に銃で撃ってくる日向を見下ろしていた。
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