上 下
29 / 86
運命が連れ去られました

なんだって? もう一回言って

しおりを挟む
 
「どうした、嬉しそうだな」

 社食で来斗は竜崎に、そう訊かれた。

 来斗はスマホを置き、
 
「今日、定時に帰れますよね」
と確認する。

 そのとき、ちょうど青葉がやってきた。

 今の話が聞こえたらしい。

「どうした。
 何処か行くのか」

「なんか姉の友だちがご飯おごってくれるみたいで」

「……そうなのか」

 おや?
 社長、なんか、しょんぼりしてるな、と来斗は思う。

 一緒に行きたかったのだろうか?
と思い、

「社長、僕の代わりに行かれますか?」
と訊いてみた。

「いや、別にいい。
 楽しんでこい。

 俺はただ――」
の先を青葉は言わなかったが、実は、青葉は、

 じゃあ、今日はあいつ、店は早く閉めるのか。

 行くの間に合わないな、と思っていたのだ。

 竜崎が、
「お前の美人のねーちゃんと食事か、いいなあ」
と言い出す。

 青葉が、
「だから、お前、あいつをまだ見てないのに、何故、美人というだけで会いたがる……」
と竜崎に言って、来斗は笑った。

 ねーちゃん、社長を誘ってあげればいいのにな、と思いながら。


「あのさー、来といてあれなんだけど。
 俺、社長と代ろうか?」

 来斗は姉の運転する車で待ち合わせのレストランとやらに向かいながら、そう言った。

「え? ……木南さんと?
 なんで」
と言うあかりは何故か、ぎくりとした顔をしている。

 なんなんだ、その顔は。
 社長が来ちゃまずいとか?

 ……男と会うとか?

 いや、だからって、社長に黙ってなきゃならない理由はないよな。

 この二人、付き合ってるわけでもないんだから。

 っていうか、男と会うのに、俺連れてくのおかしいし……。

 そこで、来斗は、はっとした。

「まさかっ。
 俺を彼氏に紹介しようとっ?」

「いや、なんでよ。
 あんたに紹介したいのは、女の子。

 いやまあ、どんな子か知らないし。
 彼氏がいないかどうかも知らないんだけど。

 あの人の妹だから、すごい美人に違いないと思って」

「あの人って誰?
 そもそも、誰と待ち合わせしてんの?」

「えーと……」

 あかりはそこで少し迷うような顔をしたあとで、
「……孔子のアパートの前で工事してた人」
と言う。

「なんで孔子さんのアパートの前で工事してた人とご飯食べに行く話になってんだよ。

 あっ、もしかして、二人でナンパされたとかっ?

 いや、それだとなんで孔子さんいないの?」

「孔子は今日、別の場所で呑み」

 そんなこと言っている間に、港近くのレストランの駐車場に着いた。

 車から降りた途端、
「ストーカー鞠宮」
と誰かが言った。

 横で、あかりが、あわわわわ、と慌てる。

「……お前、誰のストーカーなんだ?」
と来斗があかりに訊いたとき、ちょっと離れた位置にとまっていた大きな外車の側から大きな男がやってきた。

 薄暗い場所からこちらに歩いてきながら、男は言う。

「迎えに行ってやりたかったんだが、時間がなくて、すまないな」

 やってきたスーツ姿の男は、青葉だった。

 いつもより、ちょっと目つきが鋭く、腕っ節の強そうな青葉だ。

 いや、ふだんの青葉が弱そうというわけではないのだが……。

「えーと、この方は孔子のアパートの下で工事していた方で。
 木南社長の従兄の大吾さん。

 私の推し仲間の寿々花さんの甥御おいごさんでもあるんだけど」

「……なんかめちゃくちゃいろいろツッコミたいんだが」
と来斗が言ったとき、ガチャリと音がして、もうひとり、車から降りてきた。

 大吾と同じように暗がりから現れたのは、黒髪長髪色白の、ちょっとアンニュイで雰囲気のある美女だった。

 彼女がお辞儀をすると、手入れのいい黒髪が細い肩から流れて落ちる。

「満島カンナです。
 はじめまして」

 カンナが顔を上げ、印象的なその目許で来斗を見たとき。

 来斗はあっさり恋に落ちていた――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下に溺愛されて~メイド騎士の攻防戦~

愛月花音
恋愛
私は、孤児だった。 このギルス王国では、孤児を育成し 騎士にすることに力をいれていた。 私も国……そして憧れの国王陛下を守るため 努力して女騎士になった。 のちに国王陛下の 専属ボディーガード&メイドとして働くことに なったのだが……。 その国王陛下……ルチアーノ(愛称ルチア) は、とんだセクハラ男だった!? 騎士のはずなのに いつも彼の溺愛に翻弄されて 一体……どうなっちゃうの!? 悩める国王専属ボディーガード兼メイド アイリス(17歳) X セクハラ国王陛下 ルチアーノ・ギルス(22歳) アクション有りのハラハラ胸キュンの ファンタジー・ラブストーリー。 エブリスタの公式Twitterの方で 作品紹介をして頂きました!! 『新作セレクション』12月14日号に エブリスタ編集部のイチ押し作品として 載せて頂きました!! 2022年12月10日 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 *注意。 あくまでもフィクションです! 誤字、脱字があったら申し訳ありません。 気づき次第、修正致します。 公開日・2022年11月29日。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お腹の子も君も僕のものだ。 2度目の離婚はないと思え」 宣利と結婚したのは一年前。 彼の曾祖父が財閥家と姻戚関係になりたいと強引に押したからだった。 父親の経営する会社の建て直しを条件に、結婚を承知した。 かたや元財閥家とはいえ今は経営難で倒産寸前の会社の娘。 かたや世界有数の自動車企業の御曹司。 立場の違いは大きく、宣利は冷たくて結婚を後悔した。 けれどそのうち、厳しいものの誠実な人だと知り、惹かれていく。 しかし曾祖父が死ねば離婚だと言われていたので、感情を隠す。 結婚から一年後。 とうとう曾祖父が亡くなる。 当然、宣利から離婚を切り出された。 未練はあったが困らせるのは嫌で、承知する。 最後に抱きたいと言われ、最初で最後、宣利に身体を預ける。 離婚後、妊娠に気づいた。 それを宣利に知られ、復縁を求められるまではまあいい。 でも、離婚前が嘘みたいに、溺愛してくるのはなんでですか!? 羽島花琳 はじま かりん 26歳 外食産業チェーン『エールダンジュ』グループご令嬢 自身は普通に会社員をしている 明るく朗らか あまり物事には執着しない 若干(?)天然 × 倉森宣利 くらもり たかとし 32歳 世界有数の自動車企業『TAIGA』グループ御曹司 自身は核企業『TAIGA自動車』専務 冷酷で厳しそうに見られがちだが、誠実な人 心を開いた人間にはとことん甘い顔を見せる なんで私、子供ができた途端に復縁を迫られてるんですかね……?

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

処理中です...