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運命が連れ去られました

店長さんは何処ですか

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「あら、あかりさん、いらっしゃい。
 まあ、浜野屋の、これ、美味しいのよね。
 ありがとう」

 上品な包み紙の和菓子を渡すと、寿々花の友、泰子たいこは喜んでくれた。

 日の光のよく入るリビングでお茶いただく。

 浜野屋の息子はあかりの幼稚園の同級生で、などと言う話をしたり、堀貴之の話をしたりして、しばし盛り上がった。

 そのうち、泰子の息子の話になる。

「もういい年なんだけど。
 なかなかいい人いなくてねー。

 あかりさんは、もうお相手はいらっしゃるの?」

「え、いえ……」

「うちの息子、どうかしら。
 あなたが嫁なら、話も弾みそうだわ」

 ふふふふ、と泰子は笑う。

 泰子さんが姑さんなら、私も話が弾みそうですっ、と思わず、微笑んだあかりを横から、無表情に寿々花が見ていた。

 ひっ、とあかりは息を呑み、心の中で弁解する。

 寿々花さんとだと弾まないというわけではありませんよっ。

 実際、弾んでますしね、結構っ、と思いながら、あかりは、

「そ、それが実は私、シングルマザーで。
 息子がひとりおりまして」
とお宅のご立派そうな息子さんには釣り合いませんので、的な話をする。

「まあ、そうなの。
 大変だったのね。

 その息子さんの父親になる方は、今はどうされてるの?」

「はあ……ええっと。
 その、ある日突然、消えてしまいまして」

 まあっ、なんて無責任なっ、という顔を泰子がする。

 ちょっと、なんて言い方するのっ、という目で寿々花があかりを見た。

 いやいやっ。
 これ以上ないくらい的確ですよっ。

 私の愛した青葉さんは、この世から消えてしまいましたからねっ、とあかりも目で訴える。

「なんて男なのかしらっ。
 あなたみたいな人にそんな苦労させるだなんてっ。

 ほんとうに、だらしのない男ねっ」

 優しい泰子は憤慨し。
 寿々花とあかりは、ただ黙ってお茶を飲んでいた――。
 

 あら、もう夕方。

 そろそろ、ご飯作りに帰らなきゃ、と真希絵が思ったとき、カランコロンカラン、とドアチャイムの音がした。

「いらっしゃいませ~」
と愛想よく振り向いた真希絵は固まる。

 そこに、まごうことなき木南青葉が立っていたからだ。

 ふたりは見つめ合い、沈黙した。

 青葉は、

 ヤバイ、娘といる若い男を捕まえては、結婚させようとする母親だ!

 ……い、いや、待てよ。
 結婚させられたんでいいのか、とおのれの心の変化に戸惑って黙り。

 真希絵は、

 何故、ここに青葉さんが?
 あかりと、よりが戻ってたの?

 え?
 でも、記憶は?
と混乱して、なにを言ったらいいか困り、黙っていた。

 先に口を開いたのは真希絵の方だった。

 青葉さんとはいえ、お客さんに向かって黙ってるの、おかしいわよね、と思ったからだ。

「い、いらっしゃいませ~」
とひきつりながら言ってみる。

 青葉はちょっとホッとしたような顔をして、
「あの、今日は店長さんは?」
と訊いてきた。

 『店長さんは?』

 記憶が戻ったにしては妙な言い方だ。

 それに、私が誰だかわかっていないようだし。

 でも待って。
 記憶もないのに、なんで、ここにいるのっ!?
と思った真希絵は、客である青葉に向かい、訊いてみた。

「どうして、ここに来られたんですか?」

「……どうしてって。
 ランプを買いに、ですかね?」

 『手袋を買いに』みたいな感じで青葉は言う。

「いえ、私はまだ買ったことないんですが。
 そのうち買うつもりです」
と不思議なことを言ったあとで、青葉は言った。

「あの、すみません。
 ご挨拶が遅れまして」

 娘を妊娠させた青葉に、ご挨拶が遅れまして、と言われて、真希絵は思わず、身構える。

 だが、青葉は少し困った顔をしたあとで、窓の外を指差し、

「私、そこの植え込みを壊した者です」
と言った。

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