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運命は植え込みに突っ込んでくる
……年の離れた弟なんです
しおりを挟む「子どもたちを騙すなよ」
と青葉に言われたあかりは、
「騙してません。
夢を与えたんです」
と適当なことを言う。
「詐欺師か」
この人は、私を罵りに来たんですかね……?
うちの保険会社の人が言ってましたよ。
『当人同士が接触すると、話がこじれたりするので。
あとは保険会社に任せてください』と。
何故、来ないはずの人がここに……。
なにかこじれさせたいのでしょうか?
とあかりは疑心暗鬼になって、青葉を見つめる。
青葉はまだ子どもたちの方を眺めながら、
「きっと、あいつら、また明日来るぞ。
子どもってやつは際限ないからな」
と言った。
「……もしや、子ども苦手な人ですか?」
「あまり得意じゃないな」
そんな感じですよね~。
日向をけしかけてやろうかなと、この攻撃的なイケメン様に対して思っていると、イケメン様はぼそりと言った。
「子どもに笑える話をしてやるだろ?
すると、もっともっとって言うんだよ」
「ああ、ネタが尽きるんですね」
「そうじゃない。
ネタが尽きるのは、俺じゃなくて、明日のお前だ」
いやいや、チチンプイプイもありますよ。
それで、なんの魔法が発動したことにするのかは迷うところなのだが……。
「子どもって、気に入ったら、何度も同じネタを要求してくるだろ?
何度も同じの聞いても飽きるだろうに」
「それで、嫌になるんですか?」
「そうじゃない。
話すのが嫌なんじゃなくて。
徐々に子どもたちの笑いが小さくなっていくのが嫌なんだ」
……何故、この人は、まるで今後の事業展開についての問題点を語るように、子どもに笑い話をしたときの問題点を語っているのでしょうかね?
そして、私は、今、何回、
『そうじゃない』
と言われたんでしょう、とあかりが思ったそのとき、
「おねーちゃーん」
と声がした。
振り向くと、父、幾夫が三輪車に乗った日向を連れてやってくるところだった。
散歩ついでに寄ってみたのだろう。
日向が三輪車から可愛く手を振ってくる。
日向は青葉に気づくと、彼を見上げて言った。
「誰、この人?
おねーちゃんの彼氏?」
「違うよー。
昨日車で飛び込んできて、ここの木をなぎ倒した人だよ~」
「……他に言い方はないのか」
と青葉に言われたが、いや、あなたのやったこと、そのまんま言ってみただけですよ、とあかりは思う。
青葉は三輪車の後ろの手押し棒をつかんでいる幾夫を見て、頭を下げた。
固まっている父に、
「お父さん、この人、木南さん」
と紹介すると、青葉はもう一度頭を下げて言った。
「お父様でいらっしゃいましたか。
初めまして、木南青葉と申します。
この度は大変申し訳ないことを……。
娘さんがもし、自分でここを直されるのなら、お手伝いしようかと思って、来てみたのですが」
……そうだったんですか。
知りませんでしたよ、無駄話が多くて、とあかりが思ったとき、
「そうですか。
わざわざありがとうございます」
と幾夫は深々と頭を下げた。
日向が店を指差し言う。
「いっくん、おねーちゃんのお店、キラキラ」
「この間、中見せてもらったから、今日はいいだろ?
割れ物が多いから、壊したら大変だ」
「はーい。
いっくん、行こうー。
おにーちゃん、おねーちゃん、ばいばーい」
と手を振ると、なかなか進まない三輪車を一生懸命こいで、日向は去っていった。
ああ、かわいいっ。
必死にこいでも、あんまり進んでないとこが特にっ。
激写したいっ。
ちょうど電話がかかってきたらしく、青葉が取り出したスマホを奪って撮影したくなる。
青葉は少し電話で仕事の話をしたあとで、こちらを見て言った。
「あの子が言ってたみたいに、お前の彼氏だとか思われてないだろうな」
「思ってないと思いますよー」
気のない声であかりは言う。
「あの小さい子は誰なんだ?」
「……年の離れた弟です」
「お前の弟は何故、父親をいっくんと呼んでるんだ?」
「若く見られたいから、そう呼ばせてるんじゃないですかね?」
こらーっ、と父に怒られそうなことをあかりは言った。
気がついたら、両親は自分たちのことを、いっくん、まあちゃんと日向に呼ばせていた。
もしかしたら、いつか自分が家庭を持って、日向を引き取ったときのために、お父さんお母さんと呼ばせていないのでは? と思っているのだが。
結婚して家庭を持ったって、引き取れないよな。
怖いもんな、あの人……。
おかしなことしたら、すぐに弁護士とかと押しかけてきて、日向を連れ去りそうだし。
それにしても、何故、うちの家で育てることはオッケーだったのか謎だが。
深く突っ込んだら、それもなし、ということになりそうだったので、あえて聞かなかったのだが。
「俺はもう仕事に戻るが。
どうするんだ?
日曜とかに、ここを直すのなら、手伝うが。
ああ、もちろん、手伝ったからって。
賠償しないってわけじゃないぞ」
「あなたが、そんなせこいこと言うなんて思ってませんよ」
と青葉を待つように、公園近くに停まっている大きなシルバーの車を見ながらあかりは言う。
「でも、大丈夫です。
私、庭仕事とか苦手なんで。
業者に全部お任せしますから」
「そうか。
費用はこちらで持つから」
じゃあ、と行きかけて、青葉は振り返る。
「明日の呪文、考えとかないと、あいつらきっとまた来るぞ」
「大丈夫ですよ。
あとチチンプイプイとかありま……」
と言いかけ、あっ、とあかりは叫ぶ。
「さっきのあのポーズ、学芸会では、チチンプイプイのときのポーズでしたっ」
「いや、どうでもいいよ……」
じゃあな、と去っていった青葉が横断歩道を渡り、運転手の待つ車のところまで行くのを見ながら、あかりは思い出していた。
青葉の、
「子どもたちを騙すなよ」
という言葉。
「……騙してはいませんよ。
私、ほんとうに、ひとつだけ知ってるんです。
――なんでも叶う魔法の呪文」
青葉の乗った車が車道に戻り、他の車に紛れて消えていく。
気分を切り替えるように、あかりは大きく伸びをした。
「よしっ、そろそろランプつけよっかなー」
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