上 下
4 / 86
運命は植え込みに突っ込んでくる

……年の離れた弟なんです

しおりを挟む
 
「子どもたちを騙すなよ」
と青葉に言われたあかりは、

「騙してません。
 夢を与えたんです」
と適当なことを言う。

「詐欺師か」

 この人は、私を罵りに来たんですかね……?

 うちの保険会社の人が言ってましたよ。

『当人同士が接触すると、話がこじれたりするので。
 あとは保険会社に任せてください』と。

 何故、来ないはずの人がここに……。

 なにかこじれさせたいのでしょうか?
とあかりは疑心暗鬼になって、青葉を見つめる。

 青葉はまだ子どもたちの方を眺めながら、
「きっと、あいつら、また明日来るぞ。
 子どもってやつは際限ないからな」
と言った。

「……もしや、子ども苦手な人ですか?」

「あまり得意じゃないな」

 そんな感じですよね~。

 日向をけしかけてやろうかなと、この攻撃的なイケメン様に対して思っていると、イケメン様はぼそりと言った。

「子どもに笑える話をしてやるだろ?
 すると、もっともっとって言うんだよ」

「ああ、ネタが尽きるんですね」

「そうじゃない。
 ネタが尽きるのは、俺じゃなくて、明日のお前だ」

 いやいや、チチンプイプイもありますよ。

 それで、なんの魔法が発動したことにするのかは迷うところなのだが……。

「子どもって、気に入ったら、何度も同じネタを要求してくるだろ?
 何度も同じの聞いても飽きるだろうに」

「それで、嫌になるんですか?」

「そうじゃない。
 話すのが嫌なんじゃなくて。

 徐々に子どもたちの笑いが小さくなっていくのが嫌なんだ」

 ……何故、この人は、まるで今後の事業展開についての問題点を語るように、子どもに笑い話をしたときの問題点を語っているのでしょうかね?

 そして、私は、今、何回、
『そうじゃない』
と言われたんでしょう、とあかりが思ったそのとき、

「おねーちゃーん」
と声がした。

 振り向くと、父、幾夫いくおが三輪車に乗った日向を連れてやってくるところだった。

 散歩ついでに寄ってみたのだろう。

 日向が三輪車から可愛く手を振ってくる。

 日向は青葉に気づくと、彼を見上げて言った。

「誰、この人?
 おねーちゃんの彼氏?」

「違うよー。
 昨日車で飛び込んできて、ここの木をなぎ倒した人だよ~」

「……他に言い方はないのか」
と青葉に言われたが、いや、あなたのやったこと、そのまんま言ってみただけですよ、とあかりは思う。

 青葉は三輪車の後ろの手押し棒をつかんでいる幾夫を見て、頭を下げた。

 固まっている父に、
「お父さん、この人、木南こなみさん」
と紹介すると、青葉はもう一度頭を下げて言った。

「お父様でいらっしゃいましたか。
 初めまして、木南青葉と申します。

 この度は大変申し訳ないことを……。

 娘さんがもし、自分でここを直されるのなら、お手伝いしようかと思って、来てみたのですが」

 ……そうだったんですか。
 知りませんでしたよ、無駄話が多くて、とあかりが思ったとき、

「そうですか。
 わざわざありがとうございます」
と幾夫は深々と頭を下げた。

 日向が店を指差し言う。

「いっくん、おねーちゃんのお店、キラキラ」

「この間、中見せてもらったから、今日はいいだろ?
 割れ物が多いから、壊したら大変だ」

「はーい。
 いっくん、行こうー。

 おにーちゃん、おねーちゃん、ばいばーい」
と手を振ると、なかなか進まない三輪車を一生懸命こいで、日向は去っていった。

 ああ、かわいいっ。
 必死にこいでも、あんまり進んでないとこが特にっ。

 激写したいっ。

 ちょうど電話がかかってきたらしく、青葉が取り出したスマホを奪って撮影したくなる。

 青葉は少し電話で仕事の話をしたあとで、こちらを見て言った。

「あの子が言ってたみたいに、お前の彼氏だとか思われてないだろうな」

「思ってないと思いますよー」

 気のない声であかりは言う。

「あの小さい子は誰なんだ?」

「……年の離れた弟です」

「お前の弟は何故、父親をいっくんと呼んでるんだ?」

「若く見られたいから、そう呼ばせてるんじゃないですかね?」

 こらーっ、と父に怒られそうなことをあかりは言った。

 気がついたら、両親は自分たちのことを、いっくん、まあちゃんと日向に呼ばせていた。

 もしかしたら、いつか自分が家庭を持って、日向を引き取ったときのために、お父さんお母さんと呼ばせていないのでは? と思っているのだが。

 結婚して家庭を持ったって、引き取れないよな。

 怖いもんな、あの人……。

 おかしなことしたら、すぐに弁護士とかと押しかけてきて、日向を連れ去りそうだし。

 それにしても、何故、うちの家で育てることはオッケーだったのか謎だが。

 深く突っ込んだら、それもなし、ということになりそうだったので、あえて聞かなかったのだが。

「俺はもう仕事に戻るが。
 どうするんだ?
 日曜とかに、ここを直すのなら、手伝うが。

 ああ、もちろん、手伝ったからって。
 賠償しないってわけじゃないぞ」

「あなたが、そんなせこいこと言うなんて思ってませんよ」
と青葉を待つように、公園近くに停まっている大きなシルバーの車を見ながらあかりは言う。

「でも、大丈夫です。
 私、庭仕事とか苦手なんで。

 業者に全部お任せしますから」

「そうか。
 費用はこちらで持つから」

 じゃあ、と行きかけて、青葉は振り返る。

「明日の呪文、考えとかないと、あいつらきっとまた来るぞ」

「大丈夫ですよ。
 あとチチンプイプイとかありま……」
と言いかけ、あっ、とあかりは叫ぶ。

「さっきのあのポーズ、学芸会では、チチンプイプイのときのポーズでしたっ」

「いや、どうでもいいよ……」

 じゃあな、と去っていった青葉が横断歩道を渡り、運転手の待つ車のところまで行くのを見ながら、あかりは思い出していた。

 青葉の、
「子どもたちを騙すなよ」
という言葉。

「……騙してはいませんよ。
 私、ほんとうに、ひとつだけ知ってるんです。

 ――なんでも叶う魔法の呪文」

 青葉の乗った車が車道に戻り、他の車に紛れて消えていく。

 気分を切り替えるように、あかりは大きく伸びをした。

「よしっ、そろそろランプつけよっかなー」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下に溺愛されて~メイド騎士の攻防戦~

愛月花音
恋愛
私は、孤児だった。 このギルス王国では、孤児を育成し 騎士にすることに力をいれていた。 私も国……そして憧れの国王陛下を守るため 努力して女騎士になった。 のちに国王陛下の 専属ボディーガード&メイドとして働くことに なったのだが……。 その国王陛下……ルチアーノ(愛称ルチア) は、とんだセクハラ男だった!? 騎士のはずなのに いつも彼の溺愛に翻弄されて 一体……どうなっちゃうの!? 悩める国王専属ボディーガード兼メイド アイリス(17歳) X セクハラ国王陛下 ルチアーノ・ギルス(22歳) アクション有りのハラハラ胸キュンの ファンタジー・ラブストーリー。 エブリスタの公式Twitterの方で 作品紹介をして頂きました!! 『新作セレクション』12月14日号に エブリスタ編集部のイチ押し作品として 載せて頂きました!! 2022年12月10日 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 *注意。 あくまでもフィクションです! 誤字、脱字があったら申し訳ありません。 気づき次第、修正致します。 公開日・2022年11月29日。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お腹の子も君も僕のものだ。 2度目の離婚はないと思え」 宣利と結婚したのは一年前。 彼の曾祖父が財閥家と姻戚関係になりたいと強引に押したからだった。 父親の経営する会社の建て直しを条件に、結婚を承知した。 かたや元財閥家とはいえ今は経営難で倒産寸前の会社の娘。 かたや世界有数の自動車企業の御曹司。 立場の違いは大きく、宣利は冷たくて結婚を後悔した。 けれどそのうち、厳しいものの誠実な人だと知り、惹かれていく。 しかし曾祖父が死ねば離婚だと言われていたので、感情を隠す。 結婚から一年後。 とうとう曾祖父が亡くなる。 当然、宣利から離婚を切り出された。 未練はあったが困らせるのは嫌で、承知する。 最後に抱きたいと言われ、最初で最後、宣利に身体を預ける。 離婚後、妊娠に気づいた。 それを宣利に知られ、復縁を求められるまではまあいい。 でも、離婚前が嘘みたいに、溺愛してくるのはなんでですか!? 羽島花琳 はじま かりん 26歳 外食産業チェーン『エールダンジュ』グループご令嬢 自身は普通に会社員をしている 明るく朗らか あまり物事には執着しない 若干(?)天然 × 倉森宣利 くらもり たかとし 32歳 世界有数の自動車企業『TAIGA』グループ御曹司 自身は核企業『TAIGA自動車』専務 冷酷で厳しそうに見られがちだが、誠実な人 心を開いた人間にはとことん甘い顔を見せる なんで私、子供ができた途端に復縁を迫られてるんですかね……?

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

処理中です...