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第二の殺人

それ、死体ですよ

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 覗いてみたんです、裏からそっと――。


 いつも静かな雨屋敷が、今日は、ちょっぴり騒がしい。

 そんなことを思いながら、聡がトイレにしゃがんだまま、ぼんやりしていると、
「おい、居るのか、トイレの霊」
と後ろの小窓から誰かが声をかけてきた。

 よく通る男の声だ。
 嵩人でも彩乃でもない。

 振り向いてみたら峻だった。

「あれ? どうしたんですか?」
と言ってみたのだが、返事はない。

 こちらが見えていないようだった。

 恐らく声も聞こえてはいない。
 なんのために呼びかけているのだろう? と思っていると、峻が語り出した。

「誰にも言いたくない話だが、俺は此処のすぐ側の納戸で、昔、何かを見た気がするんだ。
 あんた、心当たりはないか?」

 いや、訊かれて答えたところで、貴方、聞こえてないでしょう。

 彩乃さんに仲介に入ってもらえばいいのに、と思ったが、本人が言っている通り、誰にも言いたくないのだろう。

 半分は独り言で、単に自分の頭の中を整理しているだけなのかもしれないと思った。

 納戸か。
 彩乃が現れて話をするようになってからは、時間の流れもなんとなくわかるようになったが。

 それまでは漫然と過ごしていたのでよくわからない。

 が――。

「そういえば、僕も、昔はもうちょっとうろちょろ出来てた気がするんですけど。
 いつの頃からか、近くに強烈な磁場が出来て、此処から出られなくなった気がするんですよね」

 そう言ってみたが、峻に伝わるわけもない。

 峻は窓の外に立ち、なにごとか考えていたようだが、そのまま居なくなってしまった。



 いろいろあったが、ようやく山村の葬儀が行われた。

 読経が上がっている間も、彩乃は信子たちを手伝って忙しく動いていた。

「やらなくていいのよ」
と香奈は言ったが、信子は、

「彩乃さんはみんなと並んで座ってる方が嫌なのよね」
と笑う。

 その通りだ、と思いながら、お膳の準備をしに広い廊下を急いでいると、玄関の引き戸にはまった古い結霜ガラスの向こうに、こんもりとした大きな人影とちんまりとした人影が見えた。

「ちょっと遅れたか」
と言いながら、清水が現れる。

 もちろん、谷本も一緒だ。

「ああいえ、ありがとうございます。
 いらっしゃいませ」
と言ったあとで、いらっしゃいませは変かな、と自分で思った。

「彩乃さん、さっきのお膳」
と言いながら、体格のいい下働きの女、香奈が現れる。

 香奈は清水を見て、ぺこりと頭を下げた。

 彩乃は香奈について行こうとして気づく。
 谷本たちを振り向いて言った。

「あ、すみません。
 仏間、もう座布団なかったです。

 今、座布団を……」

「あ、いいですよ。
 僕らはなんとかするんで」
と谷本が言うので、すみません、と言って彩乃は、香奈を手伝いに行った。



「座布団、別になくていいか、もう終わりだしな」
と清水が言うのを聞きながら、そうですね、と谷本は彩乃の方を見ていた。

 忙しげにお膳を手に、渡り廊下を渡っていく。

 とても、次期当主と思えない使われっぷりだ。

 少し笑ったとき、清水が何故か納戸の方を凝視しているのに気がついた。
 ちょっと嫌そうな顔をしている。

 納戸か。
 もしかして、この中に座布団ないかな?

 谷本は、なんの気なしに、ひょい、と納戸の戸を開けてみた。

 すると、そこに苦しげに首に両手をやって仰向けに倒れている女が居た。

 その体勢と形相、どう見ても死んでいる。

「彩乃さん、あと、三個」
と後ろから声が聞こえてくる。

 彩乃が納戸を開けたまま立ち尽くしている谷本に気づいたようにやってきた。

「彩乃さん、こんなところに生き霊が」
「……生きてないですよね、その生き霊」
と彩乃はよくわからないことを言ってくる。

「じゃあ、僕、死霊が見えるようになったんですかね?」
「いや、それ、リアルに死体ですよ」

 緋沙実さんじゃないですか、と彩乃は眉をひそめる。

「えっ? 緋沙実さん?」
と香奈も寄ってくる。

 後ろで清水がひとつ溜息をつき、
「もしもし、わしだが」
と署に電話をかけていた。


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