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雨が降らなくなりました
その一言を言ったら終わり
しおりを挟むどうしてこんなことになったのかな、と総司は考えていた。
まるで二時間サスペンスの犯人が、何処で自分が道を踏み誤ったのか、回想するかのように。
総司の頭の中では、今、萌子との日々が走馬灯のように蘇っていた。
俺は一体、いつから花宮を好きになっていたんだろう。
斧を持ってウロついていた辺りから、気になってはいたんだろうが。
そういえば、花宮と最初にキャンプに行ったとき、
「来週、また来ようかと思うんだが――」
そう彼女に言うのをためらった。
その一言を言ったら終わりな気がしたからだ。
なにが終わりなのか、あのときにはわからなかったが。
たぶん、それは、ひとりが気楽だと言い、一生結婚なんてしなくていいと嘯いていた今までの自分の終わりだったのだろう。
これまでの自由がなくなることに怯え、俺はあのとき、花宮に言うのを躊躇した。
確かに、花宮と会ってからの俺は全然自由じゃなくなったと思う。
時間や行動を縛られるという意味じゃなくて。
花宮と親しくなってからは、なにをするにも、まず、花宮のことを考えてしまう。
頭の中に常に花宮がいる感じだ。
でも、なにも自由にならなくなったのに。
何故だか前より、日々、充実して、幸せな気がする。
そう思う総司の前で、社食のキーマカレーを食べながら、萌子がめぐに言うのが聞こえてきた。
「あの人って、名前なんだっけ?」
「あの人って誰?」
とサラダをつつきながら、めぐが萌子を振り返る。
「ほら、パトラッシュの人間の方」
めぐも理たちも沈黙した。
「……ネロだろ」
と総司が言うと、
「ああ、そうっ!
それですっ!」
と萌子が笑う。
「よかった~っ。
スッキリしましたっ。
朝からずっと気になってたんですよね~っ」
いや、仕事しろ……と総司が思ったとき、理が苦笑いして、
「いつも唐突だよね、花宮さんのトーク」
と言う。
そうだな。
こいつの話に即座に対応できるのは、俺くらいだよな、と総司は喜んだ。
やはり、花宮と結婚できる男は俺くらいのものなのではっ、思ったとき、萌子がまた、めぐに言った。
「たまにさー。
髪型変えようかなとか思うんだけど。
仕事中邪魔になるから、編み込みとかしようかなって。
でも、頭の上とかよく見えないし、後ろも見えないから、ドローン欲しいな~って」
いや、鏡で見ろ……と総司が思った瞬間、藤崎が、
「ああ、わかるわかる」
と頷いた。
頷くなっ。
そして、俺より花宮に寄り添うなっ。
いいキャンプ仲間ではあるが。
いい奴だからこそ、危険だ、藤崎。
なんだかんだで、いい男だしな、と総司はスナイパーのような目で藤崎を窺う。
「……やはり、今、やらねばな」
ぼそりと呟いた言葉を聞きつけた理が、
誰を殺るのっ!?
という顔をする。
いや、告白だ。
キャンドルをかき集めている場合ではないっ。
今、すぐに告白せねばっ、と思いながら、食後、みんなでロビーに移動する。
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