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雨が降らなくなりました
キャンドルは何処だっ?
しおりを挟む翌日、キッチンカーに並びながら、総司はキャンドルは売ってないだろうかと真剣に看板のメニューを眺めていた。
女子好みのメニューが多い店だ。
女子好みの雑貨を抱き合わせで販売しているかもしれんと思ったのだ。
野菜たっぷりサンドとスムージーとキャンドルとか。
そのとき、小声で理が言ってきた。
「昨日、花宮さんに仏壇の蝋燭あげたんだって?」
めぐたちから聞いたようだった。
「いや……、俺は、ただキャンドルをやりたかっただけなんだが」
総司は、キャンドルで萌子の部屋をいっぱいにしたら、告白したいという話をする。
「いいなあ。
ロマンティックだねえ。
126本あるんだろ?
もういいんじゃない?」
とうっとりと理が言ってくる。
萌子が、
「いや、だから、そのうち、126本が仏壇の蝋燭なんですよ?
全部部屋に立てたら、黒ミサとか始まりそうですよ」
と突っ込んできそうだったが、突っ込んではこなかった。
ちょうど、前で、元気にベーグルサンドのセットを頼んでいたからだ。
そこで理はさらに声を落として言ってくる。
「それがさ、今朝起きたら、柴崎さんには告白できそうな気がしてきたんだよ」
「そうなのか」
見えないが、霊が離れたのだろうか、と総司は思う。
ウリは公園の真ん中あたりで、蝶々を追いかけているので、理にはぶつかってこないし、わからないのだが。
だが、理は、
「でもさ。
……なんていうか、今はちょっとめぐちゃんが気になるかなって」
と赤くなって言ってきた。
なるほど。
柴崎さんが本命じゃなくなったから、告白できそうになったわけか。
「意味ないじゃないか」
と総司は言ったが。
いろんな女性と積極的に話せて楽しそうなので、やはり、週末までは放っておくことにした。
「なに、これっ。
キャンプってサイコーじゃんっ。
いいねえ、大自然の中で、みんなで呑みながら作るのっ。
それに、さっき、萌子ちゃんが虫怖いって言うから、払ってあげただけで、めっちゃ感謝されたし、サイコーじゃんっ」
とダッチオーブンで料理を作りつつ、はしゃぐ理を見ながら、総司は思っていた。
……こいつ、キャンプには誘わなくてよかったな、と。
あとで、神社に行くときだけ誘えばよかった。
だが、こいつに憑いている霊を即行、祓わねばならないことが判明したことはよかったが……。
『萌子ちゃん』ってなんだ、萌子ちゃんって。
普段から誰にでも気安い瀬尾ならともかく。
お前が言ったら、花宮が、
『滝沢さん、私のこと好きなのかしら』
とか思ってしまうだろうがっ。
そんなことを考えながら、総司は丸ごと蒸し焼きにするつもりだった玉ねぎを真っ二つにする。
玉ねぎを理に見立てたわけではない。
たぶん……きっと……。
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