48 / 81
ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね
夢見が悪かったんだ
しおりを挟む見てしまった。
課長が花宮のテントに夜這いしようとしているところを。
しかも何故かスキレットを手に。
藤崎はテントの一面をモスキートネット代わりのメッシュシートにして、蚊帳に入った感じで寝ていたので、外が見えていた。
あの二人は実はできているのだろうか。
……ていうか、あのスキレットはなんだ?
あの手入れのいいスキレットでなにをするつもりなんだ!?
藤崎はいろいろ気になって眠れなくなってしまったが。
総司と萌子が付き合っているかどうかが気になるからなのか。
あのスキレットでなにをするつもりなのかが気になるからなのか。
今、耳許でぶんぶん言っている蚊が気になるからなのかはわからなかった――。
……モスキートネット役に立ってねえじゃねえか、と思いながら、総司がテントに戻ったあとで、手探りで、ゴソゴソ虫除けを探した。
「よーし!
今日は釣りますよー!」
朝、すっきり目覚めた萌子はキャンプ場で借りた釣竿を手に、川縁で気合いを入れる。
ちょっと人が多すぎる感じではあるが。
それでも、森を抜け、川面を吹き抜ける風は爽やかだし。
木々の緑も眩しく、いい感じだ。
夏とは思えないほど、よく冷えた空気を吸い込んで、振り向くと、藤崎がまだなにも入っていない白いバケツの前にしゃがみ込んでいた。
「どうしたの?
釣らないの?」
と訊くと、
「いや……夢見が悪くて、寝不足で」
と釣竿を手にしたまま言う。
「夢?」
「……白い面をかぶったジェイソンっぽい格好の人が、夢に出てきてさ。
スキレットを手にテントのメッシュシートのところから、中を覗き込んでくるんだ」
「なんか美味しいものでも作ってくれそうだね、そのジェイソン」
「ああ、さっきも作ってた……」
えっ? と萌子は思わず周囲を見回したが、特にジェイソンっぽい人は見当たらず、総司が横で釣糸を垂《た》らしているだけだった。
さあ、トレトレの魚を!
と萌子は張り切って、釣り糸を垂らした。
釣竿を握り、しばらく水音や梢のざわめきを楽しんだあと、萌子は笑顔のまま無言で財布をつかむ。
そのまま売店に向かおうとする萌子の両肩を総司と藤崎が叩いた。
「やるから」
「俺たちが釣ったの、やるから、花宮」
「釣り……奥が深すぎですっ」
結局、ふたりが釣った魚をご馳走になり、魚は買いに行かなかった。
「私、今度は釣りを極めようと思いますっ」
と魚だけでは足らなかったので、飯盒で炊いた米でむすびを作りながら、萌子は言った。
「今度はって、まず、キャンプを極めてない気がするが……」
と総司に言われながら。
「まあ、それは俺もだが。
でも、最近はちょっと慣れが出てきて、キャンプ中、気を抜いている気はしてるな」
と言う総司に、藤崎が、
「いや……くつろぐためのキャンプなんで、気を抜いてていいんじゃないですかね?」
と言う。
そこで、総司は、いつものように、
「山ではうっかりが命取りだからな」
と講釈をたれようとした。
「そうですね。
まあ、此処、オートキャンプ場ですけど……」
と藤崎が言おうとしたとき、カリカリという音が背後から聞こえてきた。
振り向くと、洗ってカゴに入れておいた野菜を茶色い野うさぎが齧っている。
あーっ!
と萌子と総司は叫んだ。
「……なるほど。
うっかりが命取りですね」
と藤崎が呟いていた。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
あやかし狐の京都裏町案内人
狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる