上 下
10 / 81
あやかしより不思議なものが現れました

なにが憑いてるんですか、私っ!

しおりを挟む

「すみません。
 助けていただいたお礼に私がおごろうと思ってたのに。

 今度は、私がおごりますね」

 串カツの店を出てショッピングモールの中を駐車場まで歩きながら、萌子は言った。

 だが、言っておいて、

 ……これ、私から食事に誘ってるみたいだな、と思いはしたが。

 まあ、話の流れで言っただけだから、おかしな意味には聞こえないだろう、と思う。

 でも、最初はどうなることかと思ったけど、意外と一緒にいて苦痛じゃないな、と萌子は思っていた。

 まあ、突然、串カツの歴史を語られたりするのがちょっと困りものだけど。

 どっちかって言うと沈黙する方が苦手だから、会話につまるよりはいいか、と思いながら、萌子は訊いてみた。

「そういえば、課長は、どうして突然、ソロキャンプをはじめられたんですか?」

「言わなかったか。
 俺には、山に行かねばならない呪いがかかっているんだ。

 だから、ついでに流行りのソロキャンをやってみようかと思ってな」

 ……なんなんだ、山に行かねばならない呪いって、と思いながらも、萌子は訊いてみた。

「課長でも流行りのものとか意識したりするんですか?」

「興味ないものはスルーだが。
 面白そうなものは、とりあえず試してみている」

 意外だ……。

 だが、そうして、好奇心旺盛だから、博識なのかもな、と思う萌子の頭の中では、

 山の中でテントを張り、ヒュッゲなライトに照らし出された総司が、タピオカミルクティーを飲んでいた。

 ははは、と声に出して笑ってしまい、

「……すみません」
と謝る。

 しまった~。

 謝らない方が、妙な妄想してたことを知られなくてよかったのにっ、
と後悔したとき、総司が横目にこちらを見ながら言ってきた。

「……お前でも見えないのか」

「えっ?」

「そんなモノ付けてるのに見えてないのか」

 総司は萌子を見下ろし、言ってくる。

 そんなモノ付けてるのに、という総司の言葉に、萌子は慌てて服のタグを探した。

 ときどき付けたまま出かけてしまうからだ。

「……違う」
と総司は溜息をついて言う。

「お前には、なんだかわからないが、得体の知れないモノが憑いているんだ」

 ええーっ!?
 一体、なにがっ?
と萌子はおのれの背後を見ようとした。

 背後霊のようになにかが憑いているのかと思ったのだ。

 だが、なにも見えず、ぐるぐる回ってしまう。

「シッポ追いかける犬か……」
ともれなく罵られた。

 いや、ほんとうに罵っているのかはわからないのだが、総司の口調のせいで、そのように聞こえてしまうのだ。

「い、一体、私になにが憑いてるんですかっ!」

 陽気な曲の流れるショッピングモールで総司の腕をつかみ、萌子は叫んでいた。

 静かな場所ではないので、誰も振り返らなくて助かったが……。

「いや、俺にもハッキリとは見えないんだが。
 猛スピードで動いているなにかだ」
と総司に告げられ、

「なにが憑いてるんですか、私っ!」
とまた叫んでしまう。

 さっきは漠然ばくぜんとした不安により叫んだのだが。

 今度は、ハッキリとした不安が生じて叫んでしまう。

 なんだかわからないけど、猛スピードで動いてるものってなにっ!?

 霊っ?
 あやかしっ?
と思ったとき、総司が腕をつかんだままの萌子を見下ろし、淡々と言ってきた。

「大丈夫だ。
 なんだかわからないが、お前に似合っている感じのものだ」

 見ていて違和感がない、と総司は言う。

 いや、なんだかわからないけど。
 素早く動く怪しいモノと似合いたくはないです……と萌子は思っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

付喪神、子どもを拾う。

真鳥カノ
キャラ文芸
旧題:あやかし父さんのおいしい日和 3/13 書籍1巻刊行しました! 8/18 書籍2巻刊行しました!  【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞】頂きました!皆様のおかげです!ありがとうございます! おいしいは、嬉しい。 おいしいは、温かい。 おいしいは、いとおしい。 料理人であり”あやかし”の「剣」は、ある日痩せこけて瀕死の人間の少女を拾う。 少女にとって、剣の作るご飯はすべてが宝物のようだった。 剣は、そんな少女にもっとご飯を作ってあげたいと思うようになる。 人間に「おいしい」を届けたいと思うあやかし。 あやかしに「おいしい」を教わる人間。 これは、そんな二人が織りなす、心温まるふれあいの物語。 ※この作品はエブリスタにも掲載しております。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

便利屋ブルーヘブン、営業中。

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

明治あやかし黄昏座

鈴木しぐれ
キャラ文芸
時は、明治二十年。 浅草にある黄昏座は、妖を題材にした芝居を上演する、妖による妖のための芝居小屋。 記憶をなくした主人公は、ひょんなことから狐の青年、琥珀と出会う。黄昏座の座員、そして自らも”妖”であることを知る。主人公は失われた記憶を探しつつ、彼らと共に芝居を作り上げることになる。 提灯からアーク灯、木造からレンガ造り、着物から洋装、世の中が目まぐるしく変化する明治の時代。 妖が生き残るすべは――芝居にあり。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...