上 下
7 / 81
あやかしより不思議なものが現れました

いや、日本語でしゃべって

しおりを挟む

 萌子はこれ以上の攻撃を多英たちから受けないよう。

 総司に店を紹介して欲しいと言われただけだということを少し大きめの声で語った。

「私がキャンプグッズのお店で買ったヒュッゲなライトをたまたま課長がご覧になったんですよ。

 それでお店にお連れすることになっただけです」
と萌子が言うと、多英は眉をひそめ、

「なに言ってんの、日本語でしゃべって」
と言ってきた。

 キャンプグッズでヒュッゲなライトの辺りが混乱を招いたようだ。

「いや、最近、よく雑誌なんかでも特集されてるではないですか、ヒュッゲ。
 北欧のつつましい暮らしの中で、ゆるくあたたかく生きていこうみたいな」

 へー、という多英に、総司と山で遭遇した話はしなかった。

 勝手にソロキャンプの話をしていいかわからなかったからだ。

 総司はひとり静かにソロでやりたいのだろうから、会社で余計な話はしないほうがいいと思ったのだ。

 そして、その店が会社の目の前にあることも言わなかった。

 それ、案内する意味あるのか、と言われそうだったからだ。

 ……いや、私もそう思うんですけどね、と萌子は思う。

「そんなわけで、私と田中課長は別に付き合っているとかではないんです」
という萌子の言葉を聞いた多英は笑い出す。

「だと思った~。
 あんたと田中課長、似合ってないもんね~」

「……今、ハートをぐっさりやられたので、やってもいい気がしてきましたよ」
と萌子が、結局、サバの解体に使ったナイフを見つめて呟くと、

「あんた、なにもヒュッゲじゃないわよっ!?」
と多英が叫んでくる。

 だが、多英は、
「ま、実のところ、田中課長、そんなに好みじゃないんだけどさ」

 でも、いい男だから、と言い出した。

「そもそも、私、やかましい男は嫌いなのよ」

「いや、課長、ほぼしゃべらないですよ。

 蘊蓄《うんちく》のスイッチが入ったときだけ、立て板に水なだけで。
 ……むしろ、必要なこともしゃべらないので困りますね」

 初めて山で助けられたときのことを思い出し、萌子はそう呟く。

「そうなの?
 でも、まあ、好みじゃないにしても、若手の出世頭だし、黙ってれば、すごい綺麗な顔してるし。

 人に目の前で、ひょいと持ってかれたら、惜しい感じがするじゃない。

 キャラ的に合ってない感じではあるけど。
 あんた、そこそこ美人だから。

 田中課長、実は、こういう女が好みだったのかなと思ってイラッと来たのよ」
と言う多英に、思わず、萌子は、

「あ、ありがとうございます」
と言って、定食についていたメロンを一切れあげた。

 美人、と言われたからだ。

「いや……。
 あんた、今、そこそこって言われたよ」
と横で、めぐが苦笑いしていたが。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

付喪神、子どもを拾う。

真鳥カノ
キャラ文芸
旧題:あやかし父さんのおいしい日和 3/13 書籍1巻刊行しました! 8/18 書籍2巻刊行しました!  【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞】頂きました!皆様のおかげです!ありがとうございます! おいしいは、嬉しい。 おいしいは、温かい。 おいしいは、いとおしい。 料理人であり”あやかし”の「剣」は、ある日痩せこけて瀕死の人間の少女を拾う。 少女にとって、剣の作るご飯はすべてが宝物のようだった。 剣は、そんな少女にもっとご飯を作ってあげたいと思うようになる。 人間に「おいしい」を届けたいと思うあやかし。 あやかしに「おいしい」を教わる人間。 これは、そんな二人が織りなす、心温まるふれあいの物語。 ※この作品はエブリスタにも掲載しております。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

便利屋ブルーヘブン、営業中。

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

明治あやかし黄昏座

鈴木しぐれ
キャラ文芸
時は、明治二十年。 浅草にある黄昏座は、妖を題材にした芝居を上演する、妖による妖のための芝居小屋。 記憶をなくした主人公は、ひょんなことから狐の青年、琥珀と出会う。黄昏座の座員、そして自らも”妖”であることを知る。主人公は失われた記憶を探しつつ、彼らと共に芝居を作り上げることになる。 提灯からアーク灯、木造からレンガ造り、着物から洋装、世の中が目まぐるしく変化する明治の時代。 妖が生き残るすべは――芝居にあり。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...