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捧げられし王様
諦めてください
しおりを挟む「悪さと言えば、偽の通貨を作っているのはドリシア様では?」
ハルモニアがそう言うと、ドリシアは黙った。
「何故、そう思う」
「最新の技術をさっと取り入れる革新的なところとか。
……あと、他の人があんな派手に偽の通貨作ってたら、地元の人たちが訴えそうだからです」
ドリシアの命令でやっていたから、今まで発覚しなかったのだろう。
「仕方がないではないか。
お金が尽きそうになったのだ」
とドリシアは開き直る。
「私の存在があったからこそ、我が一族の者どもは大きな顔をしているくせに。
私にはたいして金も寄越さないのだ」
それで最後の金で偽の貨幣を作る工場をこしらえたらしい。
「偽の金が氾濫して、経済が混乱しても、もはや、ここはジェラルドの国だ。
どうでもよい」
「……ほんとうに仲がお悪いのですね」
元正妃様と王様のご生母様の仲が悪かったのだろうかな、とハルモニアは推察する。
「一族の方があまりお金を送ってこないのは、こんなところでは使い道もないだろうと思ってのことでは?」
岩以外、なにもなさそうな田舎町を見下ろし、ハルモニアは言った。
「なにを言う。
ここには良いものがあるのだ。
この少し先に、永遠の若さと美貌を保てると噂の素晴らしい果実や、肌に良い水がある。
それでここで隠遁生活を送ることにしたのだが。
それらを運ばせるのに金がいるのだ」
「永遠の若さと美貌って――
何処が隠遁生活なんですか」
人前に出る気まんまんじゃないですか、と言って、
「黙れ。
私の資金源を断ちおって。
お前のような娘は離縁じゃ」
と言われてしまう。
「まあ、ジェラルドの結婚に私の権限など及ばぬのだが。
私の心の中では、お前はこの国の妃として相応しくない。
離縁じゃっ」
「まあまあ、ドリシア様。
偽金の造幣所のことは諦めてください。
その健康と美容にいい果実と水は、ここに運ばせるようにしますから」
と言うと、ドリシアの顔が一瞬、輝いた。
だが、彼女はそれを悟られぬよう、押し隠そうとする。
そこで、畳みかけるように言ってみた。
「そういえば、我が国にもありますよ。
肌に良い草花の化粧水とか。
使うとたちどころに、肌にハリが出るとかなんとか」
ドリシアの表情がまた明るくなる。
「おとなしくしていてくだされば、今度、お贈りしますよ」
「そ、そんなもので、この私が言うことを聞くと思うなよっ」
と言いながら、ドリシアはウキウキしているようだった。
「ところで、ハルモニア。
お前の夫とやらは、王都に向かったようだが、いいのか?」
「そうでしたね……」
誰なんだ、夫……と思いながら、ハルモニアは都に戻ることにする。
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