9 / 41
捧げられし王様
月夜の甲板
しおりを挟む手に入らないかもと思うから欲しくなったわけではないが。
正妃はともかく、側室妃にして自分のもとにとどめておきたくはなった。
麗しき娘よ。
お前の策略に乗ってやるか。
ハープを奏でるハルモニアの腕をジェラルドはつかんだ。
演奏が止まる。
その瞬間、背後で動きがあった気がしたが。
そちらを気にしながらも、ジェラルドはハルモニアを抱き寄せようとしたが、押し返される。
「そういうのは求めておりません」
……お前は一体、ここになにしに来た。
だが、自分をまっすぐ見つめ、ハルモニアは言う。
「王様は一言口をきいてくだされば、それで良いのですっ」
その澄んだ、伝説の宝石より清らかそうな瞳でなにを言っておるのだっ。
ええいっ。
王に喋らせさえすれば、側室妃になれるとかいう阿呆な決まり事を作った宰相は何処だっ!
そうジェラルドが思ったとき、
「ついに、伴侶を選んでしまったようですね、王様」
とまだ、喋ってもいないのに、そうと決めつけた声が後ろからする。
振り返ると、子どもの頃から仕えてくれたていた忠臣、デュモンが腰の剣を手を触れ、こちらを見ていた。
今にも抜きそうに見えた。
――クーデターかっ!?
まさかお前がっ、デュモンッ。
ご婦人方にも人気の騎士にして、幼なじみでもある麗しきデュモン。
誰よりも信頼していた彼が今、剣の柄に手をかけ、間合いをとりながら、円を描くように近づいてくる。
少しの反撃も見逃さぬよう、細心の注意を払った、本気の動きだ。
デュモンはこちらの腕前をよく知っているからだろう。
ああ。
王とはなんと孤独な職業なのだ。
心許した仲間にも裏切られるとはっ。
決して、権力などにはひれ伏さない男だったのに、デュモンッ。
月光に艶を放つ黒髪のデュモンは油断せぬまま、口を開いた。
「あなたが伴侶を選ばれたその日が、私たちの決別の日だと心に決めていました。
誰よりも思慮深く、美しいジェラルド」
「デュモン……」
思わず、その名を呼ぶ。
ハルモニアと近くに控えていたコルヌが小首をかしげるのが見えた。
今、喋ったのはカウントしてもいいのだろうかと思ったようだった。
いや、この緊縛感のない奴らめっ、と思う。
デュモンがハルモニアを見た。
「ハルモニア姫」
そんな名だったのか。
お前から教わるとは……。
もっとロマンティックに本人から聞き出したかった、と残念に思いながらも、ジェラルドはハルモニアを守るように彼女の前に立つ。
デュモンの視界から、ハルモニアを消し去るように。
ふっ、とデュモンはご婦人方が卒倒しそうな憂い顔を見せて言った。
「なかなかに計算高いハルモニア」
……そこは異論はない。
なにか崇高な志がありそうでなさそうな、よくわからぬ娘だが。
その志のためには、手段を選ばない感じがある。
「お前はそうやって、王様に気のないふりし、純な王様の気を引こうとしているのだろうっ」
やめるんだ、デュモンッ。
その点は追求するなっ。
私が傷つく予感がする!
そう思いながらも、ジェラルドはハルモニアを守ろうと二人の間に立ち続けていた。
57
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる