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白地図と最後の事件
移りゆく季節
しおりを挟むこの島で殺人事件があったとか。
殺し屋がうちに滞在していたとか。
全部夢だったのではと思うくらいに、また、まったりと時が流れようとしている、とニートは思う。
あの次の日から、売店には新しいバイトが入り、かき氷屋は彼に正しいかき氷機の使い方とやらを熱心に教えていた。
「誰か他の人もできるようにしておかないと、旅行にも行けませんからね」
と言って、かき氷屋は笑う。
どのみち、かき氷の季節はもうじき終わるのだが――。
「ニート、見たか、俺の記事っ。
昔書いた学級新聞九月二日号以来のいい出来だったろっ」
那須がおのれの記事を持って訪ねてきてそう言った。
いや、お前、今までの記者人生、あの学級新聞以上のものはなかったのか……。
「取材も受けて、全国放送にも出ちゃったよ~」
那須は一島民として、キー局の取材を受けたらしい。
……いや、それでいいのか、と思ったが、本人は嬉しそうだった。
「結局、事件解決してないよな」
縁側に腰掛け、おのれの作った庭を眺めながら、ニートがそう言うと、さっき届いたばかりの宅配便をバリバリ開けながら、マグマが言う。
「あの女の中では解決してんだろ。
っていうか、これ、俺たちへのお礼らしいぞ」
ほんとうに送ってきやがった、殺し屋なのに、と言うマグマに、
「いや、俺たちへのとか言いながら、無言でバリバリ開けるなよ」
と文句を言いながら、ニートは縁側に上がった。
「……宅配便に住所書いてるのなら、住んでる場所わかるな」
「フェイクに決まってるだろ、殺し屋だぞ」
と素っ気なく言うマグマに、そうか、まあ、そうだな、と思う。
倖田がみんなに焼き肉をおごってやるとか言ってはいたが、そのとき、あいつは居ないんだろうなとも思っていた。
「……まあ、品物の種類とか、宅配出した場所から、割れなくもないだろうが。
そんなの誤魔化す術知ってるだろ」
マグマも少し寂しく思っているのか、そんなことを言う。
「ファストフードももう居ないか、嘘かのどっちかだろうし。
……魚の干物セット。
個人商店の。
めちゃくちゃ何処で買ったか、特定されるぞ、殺し屋。
……一点ものの風鈴。
死ぬほど特定されるだろうがっ。
っていうか、夏も終わろうかってのに、風鈴かっ?」
いろいろ文句を言いながらも、マグマはその風鈴を軒下に吊るしていた。
まだ暑い風に乗って、ちりんと揺れる。
「連絡してきたら、もう一個色違いのクマ見つけたからやろうと思ってたのに」
「そんなにクマばっかりいらないだろ」
と言ったとき、マグマが、
「そうだ、このフェイクの電話番号にかけてやれ」
と言い出した。
「やめろよ。
全然関係ない人の番号だろうが」
その番号は携帯の番号ではなく、固定電話のもののようだった。
「いや、公共の施設か、どっかの店の番号か。
まあ、使われてない番号かもな」
そんなことを言いながら、スピーカーにして子機から、マグマがかけると、
「はい」
と何処かで聞いた声がした。
「出るのかよっ」
「はい、市川です。
ただいま、留守にしております。
ピーッという発信音のあと……」
留守電だったが、その声は確かに茉守の声だった。
「市川って誰だよっ」
また名前変わってやがるっ、とマグマは笑っていたが。
よく考えたら、彼女は菊池茉守でも、山村瑞樹でもない。
こちらがわかるようにか、宅配は、菊池茉守の名前で出していたようだが。
「嘘だろ。
住所もまさかホンモノかよ」
ニート、行ってみようぜ、とマグマは立ち上がる。
「何処に?
まさか、その住所に?」
と問うと、
「いや、二時過ぎてる。
新川駅横のハンバーガーショップに決まってるだろっ」
とマグマは笑う。
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