44 / 75
海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
暁島の十三不思議
しおりを挟むそのまま、消えずの火を二人で眺めに行く。
薄暗いお堂の中で、今日も赤々とした炎がもったいないくらい燃えていた。
その炎に顔を照らされながら、倖田は大真面目に言ってくる。
「宮島の七不思議とかあるじゃないか。
対抗して、暁島の十三不思議とか考えようかと思うんだが」
何故、そんな不吉な数字にしましたか、と思いながら、茉守は問うた。
「十三もあるんですか?」
「『消えずの火は、ほんとうに千年前からの火なのか』とか。
『消えずの火って、宮島からのパクリじゃないのか』とか。
『火の番をしに上がってくるジイさんは、いつも年をごまかすが、本当は幾つなんだ』とか」
「……そんなに細かく分けたら、消えずの火だけで、十三行きそうですね」
と茉守が言ったとき、
「あの~、すみません」
と明るいお堂の外から遠慮がちな女性たちの声がした。
「倖田先生ですよね?」
OLのグループらしき観光客が立っていた。
「あの、私たち、先生の大ファンなんですっ。
後援会のリーフレットも大事に取ってますっ」
ああ、あれ、顔がバーンッと出てるもんな……。
「一緒にお写真とか、お願いできますかっ?」
政治家にファンってどうなんだろうなと思ったが、倖田は愛想よく応対し、握手までしていた。
「あ、じゃあ、私、写真撮りましょうか」
とつい茉守は言っていた。
「こちらは、役所の菊池さんです」
と倖田が茉守を適当に紹介する。
観光地を役所の人間と見て回っていたという設定なのだろうか。
いや、案内してもらっていたのは、こっちなんだが、と茉守は思う。
「すみません。
お願いしますっ」
と彼女らに言われ、スマホを預かった茉守は消えずの火のあるお堂の全景が入るように少し下がって写真を撮ろうとした。
「あの、人が増えたりしてたらすみません」
と言う。
茉守が撮ると、霊が写り込むときがあるからだ。
えっ? 人が増える……?
と女性たちはなんだかわからないまま、苦笑いしていたようだったが。
倖田はすぐにわかったようで、溜息をつき、
「誰か別の奴に――」
と言いかけた。
ニートとマグマが下から歩いて上がってくるのが見えた。
茉守は、
「かき氷屋さん」
とお堂の隣にあるかき氷屋を呼ぶ。
えっ? なんですかっ?
と茉守の言動を不安に思っているらしいかき氷屋が怯えたように返事してくる。
「すみません。
私、お店番しますから、写真撮ってください」
と茉守が言うと、
「なんだ、そんなことなら別にいいですよ」
とホッとしたように言い、スマホを受け取ってくれた。
茉守はかき氷屋にやってきたマグマたちに向かい、いらっしゃいませ、とデパートの店員のように優雅に頭を下げる。
「……なんか山頂の売店がグレードアップされた感じがするぞ」
とマグマが呟いていた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
桜子さんと書生探偵
里見りんか
ミステリー
【続編(全6話)、一旦完結。お気に入り登録、エールありがとうございました】
「こんな夜更けにイイトコのお嬢さんが何をやっているのでしょう?」
時は明治。湖城財閥の令嬢、桜子(さくらこ)は、ある晩、五島新伍(ごしま しんご)と名乗る書生の青年と出会った。新伍の言動に反発する桜子だったが、飄々とした雰囲気を身にまとう新伍に、いとも簡単に論破されてしまう。
翌日、桜子のもとに縁談が持ち上がる。縁談相手は、3人の候補者。
頭を悩ます桜子のもとに、差出人不明の手紙が届く。
恋文とも脅迫状とも受け取れる手紙の解決のために湖城家に呼ばれた男こそ、あの晩、桜子が出会った謎の書生、新伍だった。
候補者たちと交流を重ねる二人だったが、ついに、候補者の一人が命を落とし………
桜子に届いた怪文の差出人は誰なのか、婚約候補者を殺した犯人は誰か、そして桜子の婚約はどうなるのかーーー?
書生探偵が、事件に挑む。
★続編も一旦完結なので、ステータスを「完結」にしました。今後、続きを書く際には、再び「連載中」にしますので、よろしくお願いします★
※R15です。あまり直接的な表現はありませんが、一般的な推理小説の範囲の描写はあります。
※時代考証甘めにて、ご容赦ください。参考文献は、完結後に掲載します。
※小説家になろうにも掲載しています。
★第6回ホラーミステリー大賞、大賞受賞ありがとうございました★
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる