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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
どんな事件より難問だ……
しおりを挟む「まったくねえ。
こんなに連続して、事件が起こるなんてねえ」
茉守は島の集会所を訪れ、おじいさんやおばあさんたちの話を聞いていた。
「私も警察に話を訊かれたわよ」
「あら、私は訊かれてないわ」
「じゃあ、言ってきなさいよ、警察の人に。
なんで私のところには訊きに来ないのって」
いや、なんでわざわざ警察に訊かれたいんですか。
疑われたいのだろうか、とぼんやり入り口付近に立ったまま、茉守は思う。
山の中腹にある集会所は、島の風が程よく入ってきて、いい感じだった。
眼下には、波とともにキラキラと揺れる光に満ちた海が見える。
「佐古さんちの息子さんに言ったらいいんじゃないの?
話訊きに来てくれるわよ」
「あらー、私はマグマちゃんの方が好みだわ」
……マグマちゃん。
っていうか、マグマさんは警察はもうお辞めになっていらっしゃいますが。
「私はニートくんの方が好みね」
その人は警察の人ではありません。
「やっぱり、倖田の眞人くんでしょ。
ちょっと悪の魅力っていうか、いいわよね」
……いつの間にか、誰が一番好みかという話になっていたようだ。
っていうか、政治家の倖田さんが一番の悪なのか。
暴力的な意味では、マグマさんな気がするけど、と思いながら、茉守が、ぼうっと突っ立っていると、
「あら、ごめんなさい。
茉守ちゃんだったかしら?
お菓子食べて」
とお菓子を差し出される。
マグマのうちの仏壇付近に置いてあるような感じのお菓子だ。
「まあ~、ほんとうに綺麗な子ね」
と感心される。
どうやら、倖田家のお手伝い、サヨに茉守の話を聞いていたらしい。
「島の暮らしには慣れた?」
いや、島に住み着く予定はありませんが。
ニートさん殺しに来ただけなんで、と思いながらも、にこにこ話しかけてきてくれるおばあさんたちには逆らいがたく、
「はい」
と言う。
いろいろ不便はないかと問われた。
そこに、集会所の管理人と話していた倖田がやってきた。
彼が此処まで連れてきてくれたのだ。
「茉守ちゃんは誰が好み?」
とおばあさんの一人に、どんな事件より難しいことを訊かれる。
好みとは……と茉守は困った。
愛想のいいおばあさんたちのためにちゃんとした返事をしたいと思ったが。
そんなことを問われても自分にはわからない。
横から管理人のおじさんが、
「わしじゃよな~」
と言ってみんなを笑わせてくれた。
「……俺じゃないのか」
と倖田が真面目な顔で言ったので、またみんなが笑う。
近くに居たおじいさんが、
「しかし、橋ができた途端に、ほんとうに災厄が訪れたのう」
と言うので、
「すみません」
となんとなく茉守は謝った。
真っ先にあの橋を渡ったのは自分だし。
そもそもが、ニートに災厄を運んできた人間だからだ。
だが、おじいさんたちは、
「なにを言う。
あんたみたいな綺麗な人が災厄なはずがあるもんかね」
と言い、おばあさんたちは、
「そうよ。
礼儀正しいし、よく食べるし、いい子だって、サヨさん言ってたわ」
と言ってくれる。
「茉守ちゃんは、ずっと島に居るのかしら?」
「眞人くんとはどんな関係?」
「この島には誰かを訪ねてきたの?」
「どんな人が好み?」
急におばあさんたちの口調が速くなる。
「うちの孫、ちょっとマグマちゃんに似てるのよ」
「島に興味があって、訪ねてきたのよね?
定住する気はないのかしら?」
「大学生って聞いたけど。
卒業は近いの?
就職先はもう決まってる?」
「うちの孫はちょっとニートくんに似てるって言われるの」
「実家はこの近くなの?」
「うちの孫は公務員だから、収入は安定してるわよ」
「うちの末の息子は漁師を継いだんだけど。
結構儲けてるわよ」
「あら、うちの孫なんて……」
そこで、倖田が茉守の肩をつついた。
外に出るよう、促す。
「みんな街に出てしまって。
島には若い娘が少ないから、お前は孫や息子の嫁候補として狙われている」
と言われた。
「たまに、街の人間が大自然に囲まれたいとか言って、島に定住したりするからな。
お前もそうかと思われてるんだろう」
「そうなんですか。
……確かに、なんか事件のこと、訊く雰囲気じゃなかったですね」
「午前中くらいにくれば、まだ事件のことで盛り上がってたかもしれないけどな。
あの人たちにとっては、事件よりも、孫や息子の結婚の方が一大事なんだよ。
ま、誰もなにも知ってなさそうだったけどな」
事件の話を出したときの全員の表情を離れた場所から眺めていたらしい倖田が言う。
「そうですね。
マグマさんは私が訊いたら、なにか違う話が訊けるかもとおっしゃいましたけど。
島の皆さんのお嫁さん探しが大変、ということがわかっただけでしたね」
「だがまあ、なにが事件と関係あるかわからないしな」
と言いながら、倖田は山頂の方を眩しそうに見た。
「そういえば、倖田さん、お仕事の方はいいんですか?」
「ああ、もうちょっと大丈夫だ」
「そうですか」
「早く事件が片付いてくれないと、島の印象が悪くなるしな。
俺が議員になったのは、生まれ育ったこの島を盛り上げたいという思いもあってのことだから」
「立派なことですね」
「……無表情に言われてもな」
と言ったあとで、倖田は言う。
「後ろになにか憑けてる人間がなに言ってんだと思ってるのか?」
「……倖田さん、もしかして、私を見張ってるんですか?
余計なこと言わないように」
と軽く小首を傾げながら茉守はそう言った。
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