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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

きっとこれが運命なんです

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「あなたは死神が自分の居場所を見失わないよう、絶対に調べにくるだろう故郷に戻り。

 いつ来るともしれない死神をただ待ち続けていたんです。

 マグマさんはおそらく、ニートさんが罪に問われないことを不服に思った被害者の関係者が彼を殺しに来たりしないか不安に思い、調べていたんでしょう。

 両親が喧嘩ばかりしていた荒んだ家庭で、兄だけを頼りに生きてきた山村瑞樹。

 殺しにくるのなら、その妹しか居ないと当たりをつけていたのでは――?」

 茉守は窺うようにマグマを見る。

「両親の離婚後、私は母方に引き取られていました。

 母の再婚相手が渡米したので、私もついていき。

 母以外血のつながらない家族の中で疎外感を感じながら、生きてきました。

 頼りになるはずの母も、今の父と揉めたくないので、向こうの家族の肩を持つばかり。

 私は、いつかまた兄に会える日だけを楽しみにしていました。

 母と父は連絡をとっていなかったので。

 その大事な兄が殺されたことを知ったのは、ずいぶん後になってからでした。

 唯一の拠り所だった兄を失い、私は心を失いました」

 笑うこともなくなった、と茉守は言う。

 そんな茉守をまっすぐ見つめ、ニートが言った。

「罪に問われず放り出されて、どうしていいかわからなくなった。
 なにもかも俺のせいなのに――」

「あなたのせい……

 ではないのだと思いますよ」

 わかってはいるんですけどね、と相変わらず、感情の欠片も見せずに茉守は言った。

「あなたは優しいから、つい、困っている感じの女の人に手を貸してしまったのでしょう。

 でも、さっきも言いましたけど。

 あなたは女性を見る目を養うべきです」

「確かにニートは女を見る目がない」
とマグマは罵ったあとで、

「だが、学習したのか、お前のことは最初から警戒していたようだぞ」
と言って、ちょっと笑う。

「というか、俺が怖いのは、お前が素直に取材に応じ、写真を撮らせ。
 その日の宿もとってなかったことだ。

 お前、ニートを殺しに来たんだろう?
 その日のうちにやる気だったのか」
と問われ、茉守は、はい、と言う。

「……恐ろしい女だ」

「でも、いろいろ事件が起きたりして、予定が狂ってしまって。
 
 じゃあ、こう、じわじわと真綿で首を絞めるように怯えさせたりとかしようかなって思ったんですけど。

 最初からなんか怪しまれて、ニートさんにも警戒されて」

 一からやり直したいです、と茉守は無茶を言う。

「ところで、マグマさんは、すぐに私のことに気づいていたようですが。
 何故わかったんですか?」

「その足首の包帯だよ。
 願いが叶いもしないのに切れかけて止めているというミサンガ。

 もしかしたら、お前の兄貴が身に付けてた奴じゃないか?」

 死体にもついたままだった、とマグマは言う。

「そうです。
 日本に来て、形見分けにと父にもらいました。

 兄がなにを願っていたのかわかりませんが。

 私はその私には大きすぎるミサンガを足首に巻き、ニートさんへの復讐を誓ったんです。

 でも、思い切れないでいるうちに、ミサンガが切れそうになって焦りました。

 ……だけど、私はもう充分、あなたに復讐してたんですね。

 あなたは誰も自分に復讐しに来ないことに絶望していた。

 じゃあ、これから言うことは、あなたにとっては、救いではなく、更なる絶望を与えることになるかもしれません」

 あなたの居る島に橋がかかると聞いて、なんだか運命を感じた、と茉守が言うと、倖田が複雑そうな顔をする。

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