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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
翻弄される人々
しおりを挟む「ツギ ハ オマエダ」と書かれた紙がまた波にさらわれる。
思わず、と言った感じで、佐古が足を踏み出した。
紙が揺れ、下向きに描かれた矢印が佐古を向く。
みんなが佐古を見た。
佐古が慌てて、立ち位置を変える。
波がまた打ち寄せ、紙の向きが変わり、今度は矢印が那須を向いた。
うわっ、と那須が逃げる。
寄せては返す波に揺れる矢印。
遅れて到着した島の警官たちも混ざり、逃げ惑う人々。
やがて、矢印はニートを向いたが、ニートは逃げなかった。
「……『ツギ ハ オマエダ』とか困りますね」
と茉守が呟いたとき、
「なにやってんだ、佐古ーっ!」
指紋つけずに拾っとけーっ、と怒鳴る声がした。
振り返ると、鑑識の車が着いていた。
佐古たちと同い年くらいの男が車から荷物を下ろしながら叫んでいる。
「す、すまん。
阿呆どもにつられたっ」
と佐古も叫び返していたが。
いや、真っ先に矢印から逃げたの、あなたですよ、と思いながら茉守はそんな佐古を見ていた。
「びっくりしたぞ。
急いでやってきたら、坊主に政治家に世捨て人まで混ざって、きゃっきゃうふふと遊んでて」
庄田という、すっきりと鼻筋の通った鑑識の男が全員を毒舌で罵る。
鑑識の人間たちに砂浜は占拠されたので、茉守とニートは上の道に上がった。
茉守はニートに訊いてみる。
「さっき、なんで逃げなかったんですか?」
うん? とニートがこちらを見た。
「『ツギ ハ オマエダ』からなんで逃げなかったんですか?」
「ただの矢印だろ?
警察は昨日見つけた女の死体の側にあったものが流されたんだと考えているようだし」
「それにしても、縁起が悪いですよ」
「……そういえば、倖田がお前のことを縁起が悪いと言っていたが」
へえ、と茉守が言うと、
「不吉なくらい美しいと言っていた」
と言う。
「ありがとうございます」
と鑑識が居る浜の方を見たまま茉守は照れもせず言った。
庄田とマグマが揉めている。
「お前、しれっと居るなよっ。
うっかりお前に説明しそうになったじゃないかっ。
警察クビになったんだろうが、去れっ」
「クビになったんじゃないっ。
辞めたんだっ」
「クビになったも同然だろうがっ。
署長がかばわなかったからっ。
おおっとっ。
そうそうっ。
お前、署長殺しの犯人かもしれなかったんだよなっ」
「なんか楽しそうですね」
「……そう見えるか?」
そんな話をしていたとき、誰かが道沿いにある手入れのいい街路樹の陰から飛び出してきた。
「死んでっ!」
可愛らしい感じの小柄な女性がナイフを手に飛び出してきた。
ニートがすんでのところでかわす。
「お願いっ。
死んでっ」
近くに居た倖田がこちらに駆けつけながら女に向かい叫ぶ。
「やめろっ。
何故だっ!?」
同時に走り出していたマグマもまた女に向かい叫んだ。
「おいっ、お前、名前はっ?」
助けもせず、下を向いて鑑識の作業を続けながら庄田が言う。
「なにが、『お名前は?』だ。
お前が何故だ、だよ」
女が答えたのは、倖田の問いにだった。
「殺されたからよっ」
一撃めは上手くかわしたニートだったが、何故か、そこで立ち止まる。
倖田が舌打ちして、女が突き出そうとしたナイフの前に手を出した。
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