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容疑者マグマと第二の殺人

ほぼダークマター

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「顔色が悪く、落ち着かない感じだったんで、すごく記憶に残ってたんです、その女性」
と従業員たちが教えてくれる。

「最近は女性の一人旅も珍しくないんですけどね。
 そういう方たちとは違って、なにも楽しそうじゃなかったんですよ」
と番頭も言った。

「思い詰めてそうな一人旅の方は危険なので、注意してたんですけどね」
と言う番頭に、茉守は、

「じゃあ、自殺という可能性もあるわけですか?」
と訊いた。

「あの橋の上で?
 吹きっさらしで寒いぞ」
とマグマが言い、

「そういうときはなにも気にならないもんなんじゃないか?」
とニートが言い、

「俺なら嫌だな。
 あんなところで死んでたら、気づかない奴に轢かれかねない。

 島は目の悪い老人ドライバーも多いからな」
と倖田が言う。

 歩道と車道の区別もない小さな橋だ。

 車が避けるようなスペースもあまりない。

 確かに、あんなど真ん中で死んでたら、うっかり轢かれてしまうかもしれない。
 

「住所も電話番号も案の定、でたらめだったな。
 身分証明書もない。

 身元不明の死体になるのに、ぴったりな感じだ」

 そうそうに旅館を追い出された茉守たちは、倖田の車の中で話し合いながら、島へと戻る。

「最初から、なにも持ってなかったんですかね?
 それとも、犯人が奪っていったんですかね?

 あ、自殺でなければの話ですよ」

 警察はなにも教えてはくれなかったが、旅館の人間に質問する感じからして、被害者の女性はなんらかの毒物で亡くなったようだった。

「じゃあ、犯人俺じゃないだろ。
 あんなに静かに死にそうな毒持ってないからな」

 これで、ただの第一発見者になれそうだ、
と倖田が言う。

「いや、政治家なんだから、いろいろ怪しい薬も毒も持ってるだろ」

 倖田はマグマにそう言われ、
「……お前は政治家に偏見があるぞ」
と言い返していた。

「政治家だって名乗ると、もれなく、じゃあ、あくどい人なのね、みたいな目で見られるが。

 こんな地方の議員なんて。
 企業と癒着しなければ、なんの旨味もない仕事だぞ。

 真面目にやってたら、金は出ていく一方だ。

 きちんと仕事を遂行するだけの地方議員なんて、金持ちの道楽でもなければやってられないよ。

 あとは別の仕事のために、箔つけるのにやるくらいのもんかな」
と言う倖田は、どっちなのだろうな、と茉守は思う。

「おい、女子大生」

 旅行客から女子大生になったな、と思いながら、茉守は倖田を見る。

「俺の後ろに、殺された女が居るんだろ?
 じゃあ、お前がそいつに話を訊けば、事件は万事解決じゃないか」

「世の中に、どれだけ霊が見える人間が居ると思ってるんですか。
 そんなことで解決できるのなら、どの事件もとっくの昔に解決してますよ」

 言わないだけで、警察の中にも見える人間は、きっと居ます、と茉守は断言する。

「それで事件が解決できないと言うことは、霊の力や証言では無理だということです。

 そもそも、霊が見たものが正しいかどうかも、私たちには判断できませんしね。

 それに――

 もう居ないです、さっきの霊」

 その言葉に、ニートが顔を上げ、倖田の肩の方を見る。

「なにっ?
 もう居ないのかっ?

 よくも見つけておいて、知らん顔をして逃げようとしやがってっとかって、祟ったりするもんなんじゃないのかっ?」

「知らん顔をして逃げようとしたんですか?」

「ああ、すまん。
 言葉の綾だ。

 埋めるか捨てるかしようとしたんだった」

 横で、ニートが、より悪いだろ、という顔をしている。

「霊って気まぐれなんで。
 突然、あっ、と思いついて、成仏しちゃったのかも」

「そんなもんなのか……。
 霊ってなんか、怨念や因縁なドロドロななにかに縛られて動けないもんだと思ってた」
と倖田は言う。

「霊って別に特別な存在じゃないですよ。

 宇宙空間にあるダークマターみたいなもんで。
 見えないだけで、普通にその辺にある物質なんで」

「急に情緒なくなったぞ……」

「でも、移動せずに、ずっと同じ場所に居続ける霊は、なにか思うところあるからそうしてるんでしょうね」
と言いながら、茉守はチラとまたニートを窺う。

 ニートは倖田の左後ろを見ていた。

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