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エピローグ

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 二月、人事異動があり、那智は秘書になった。

 専務室の窓から外を見る。

「綺麗な夕焼けですねー」
と伸びをしかけて、止められる。

「手を挙げるな」

 こちらを振り返らないまま言う遥人を振り返り、よくわかったな、と思った。

「手を挙げろってのはよく聞きますが、手を挙げるなってのは珍しいですね」

 遥人は椅子を回して振り返り、
「妊娠中は手を挙げるとよくないって言うじゃないか」
とまだ生まれてもいないのに、既に父親の顔になって、言ってくる。

 桜田さんもこうだったのかな、と思うと、なんとなくおかしくなってくる。

「それにしても、甘いですよね。
 甘々ですよね、お父様。

 父親ってみんなこうなんですかね?」

 この間の騒動を誰も知らないことをいいことに、梨花の婚約が白紙になっただけで、遥人の立場は変わらないままだった。

 まあ、その代わりに、遥人と政臣の関係もオープンにされないままだったが。

 みんなはまた、梨花が浮気して、破談になり、その詫びとして、遥人を専務の地位に置いているのだろうと思っている。

「会社乗っ取るもなにもないですよー。

 此処まで登ってこいって。
 ほとんどハシゴかけて、手招きしてるじゃないですか」

 うるさい、と赤くなる遥人を見て、那智は笑う。

 夕日に温まった窓に背を預け、那智は言った。

「いつか言いましたよね。
 子供というのは、想いの塊なんじゃないかって。

 だったら、キスだけでも、子供はできますよって。

 ほら想いが溜まったんです」
と那智がお腹に手をやって見せると、違うだろ……という顔を遥人はした。

「私思ったんですよ。
 王が改心して子供と暮らし始めても、それでもシェヘラザードは毎晩、話し続けたんじゃないかって」

 愛する王と家族のために。

「ぬいぐるみを買ってやってくださいね。
 この子のために」

「なに女だと決めてかかってんだ」
と遥人は複雑そうな顔をする。

 いや、男の子でも、ぬいぐるみで遊ぶと思いますけどね、と思いながらも、

 でも、確かに、女の子のような気がしている――。

 那智はもう一度お腹に手をやった。

 お前にも娘ができればわかると桜田に言われた言葉が、彼に今、重くのしかかっているようだった。

 生まれる前から、嫁に行くときの心配してどうすんだ、と那智は笑った。

「でも、このところ、ずっと予定いっぱいですね。
 夜も会食続きで。

 今、少し時間空いているので、ちょっとお休みになられてはいかがてすか?」

 秘書らしく、そんなことを言ってみると、そうだな、と遥人は言う。

 既に不眠症ではないので、夜も眠れはするのだが、今度は、忙しさから眠る時間が取れないでいた。

 ソファで横になる遥人にブランケットをかけてやる。

 遥人の顔の側にそっと腰掛けた那智を見上げ、遥人は微笑んで言った。



「で? 今夜は、なにを語ってくれるんだ?
 シェヘラザード」



                     完


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みんなの感想(6件)

おゆう
2022.05.26 おゆう
ネタバレ含む
菱沼あゆ
2022.05.26 菱沼あゆ

おゆうさん、
ほんとですよね~(^^;

解除
kuni
2022.04.21 kuni

あゆみん様

ついに完結してしまいましたね。読んだ事有るのに、後半のドキドキ感と毎回楽しく読ませて頂きました。
他にも好きな作品が多くて、こちらでもまた色々な作品を読めるの楽しみにしています(*^^*)

菱沼あゆ
2022.04.21 菱沼あゆ

kuniさん、
ありがとうございますっm(_ _)m💦

いや~、終わってしまいました(^^;
最近はこういう感じの恋愛物書いてないので、ちょっと懐かしくて。
また書きたいな~と思いました。

明日から、また頑張りますね~(⌒▽⌒)/

解除
johndo
2022.04.07 johndo

菱沼様の作品の好きなところは(いくつもありますが)、主人公が何気に必ず美人なところと、イケメンしか出て来ないところです。
桜田氏の正体は、持ち越し回でしたね。
深鈴と志貴みたいな関係なのかな、と思っていたら、どうやら、那智の母親と関係があるっぽい?

菱沼あゆ
2022.04.08 菱沼あゆ

johndoさん、
確かに美人とイケメンしか出てこないかも(⌒▽⌒)
いや~、やっぱり、物語は華やかな方がいいかな~と思って(^^;

桜田さんの正体、徐々~に出てきます。

ありがとうございますっ╰(*´︶`*)╯♡

解除

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