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遥人の結婚式 ―千夜一夜の物語―

お腹にためてると、ストレスになるので

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 かなり園内を回った夕方近く、遥人が、
「ずいぶん寒くなってきたが、イルミネーション見るか?」
と訊いてきた。

「寒いですが、見ます」
と主張すると、わかった、と言ってくれる。

 年末の野外でのカウントダウンに行った人たちが、これは、なんの罰ゲームだ、と思った、とよく言うが、今もちょっとそんな感じの寒さだった。

 街中に戻れば、きっとそれほどでもないのだろうが。

「あれ着てくればよかったです。
 あの駅伝とかの人が待ってる間に着てる。

 下からこう、チャーッとファスナーが上げられる」
と言うと、わかったわかった、と言われる。

「名前言わなくても、なんだかわかったぞ」

「色気もくそもない格好ですが、今はしたいです。
 あの目の前の、カップルのミニスカートで生足の人がお腹が痛いんじゃないかと思って気になってしょうがないです」

「お前は本当に色気がないな」

 そんなことは言われなくてもわかっている。

 もし、自分がこういうタイプじゃなかったら、如何に遥人が手を出すまいと思っていても、毎晩一緒だと、さすがにこうは貫けなかったんじゃないかと思う。

 ……我ながら、ちょっとむなしいが。




 イルミネーションは綺麗だった。

 特に青っぽい電飾は綺麗だな、と思う。

 でも、それを見たかったのは、イルミネーションを楽しみにしていたからだけではない。

「このまま帰りたくないです」

 思ったままをついに口にしてしまった。

 イルミネーションを見て歩いているうちに、出口に近づいてきたからだ。

 困ったような遥人に、
「大丈夫です。
 言うだけです」
と近くの柵をつかんだまま言う。

 目の前では、可愛らしいアリスの形の電飾がトランプの前で瞬いていた。

「お腹にためてると、ストレスになるので。
 なんでもとりあえず、言うことにしてるんです」

「……口に出したら、周りのストレスになるだろうが」

「すみません」

 遥人は空気が冷たいせいか、山だからか、下のイルミネーションが明るいわりには、綺麗に見える星空を見上げて言った。

「今日は、この辺りに泊まろうか。
 明日、仕事に間に合うように早く出よう」

「……そうですね」

 でも、いいんですか? と思ったが、言葉には出さなかった。


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