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浮気相手のちょっとした秘密
いや、そもそも犯罪ですよ
しおりを挟む翌朝、那智は早めに遥人の元を出て、一度、自宅に帰った。
鍵を開けるふりをしたあとで、扉の前で呼びかける。
「洋人、居るんでしょう?」
すると、ちょっと間があって、階段の方から、洋人が現れた。
今日も曲の流れていないヘッドフォンを首からかけている。
「洋人。
調べて欲しいことがあるの」
「高くつくよ」
笑いもせず、洋人は言った。
「う……幾ら?」
と言うと、洋人は笑い、
「君から金は取れないよ。
僕は君のパパだからね」
そう言う意味じゃないよ、と彼は言った。
「なにも知らない方がいい。
君の気持ち的に後から高くつくって言ってるんだ」
那智は洋人の手を握り、
「お願いよ、洋人。
お母さんに、やっぱり、洋人は頼りになるって言っておくから」
と言うと、
「わかったよ、那智。
でも、後で泣いても知らないからね」
そう言い、
「じゃあ、報酬はこれでいいや」
と那智の頬に軽くキスしてくる。
「洋人、お母さんの癖が移ってきてるわ」
性格も似てきてる、と母の愛人である洋人に言うと、
「それがあの人の精一杯なんだよ」
と肩をすくめて見せる。
「自分が愛情をかけられて育ってないから、娘にもどうしていいのかわからないだけ。
なんだかんだで、桜田や僕に君の様子を見させてるじゃない」
那智はさ、と少し言いにくそうに言う。
「那智はあの人の恋人に襲われかけたことがあるよね」
「なんで……」
それは誰にも言ったことのない心の傷だ。
すぐに逃げたから大丈夫だったが、あれからちょっと男の人が怖くて、それで恋ができなかったというのもある。
「知ってるんだよ、あの人。
だから、君と別れて、暮らし始めた。
二度と自分のせいで、君に危害が加えられたりしないように。
ま、那智を襲いかけたそいつは、桜田が半殺しにしたらしいけど。
あの人の場合、シャレにならないからねえ」
本当に、半殺しで済んだのだろうかな……。
はは、と那智は笑った。
「じゃあね。
あんまり期待しないで待ってて」
と言って洋人は行ってしまう。
溜息をついて、ドアを開けると、桜田が立っていた。
うわっ、と声を出して逃げかけるが、洋人に気づかれてはまずい、と思い、そのまま、桜田を押しのけるようにして中に入り、ドアを閉めた。
「なんで居るんですか」
「なんで、俺じゃなくて、洋人に頼む」
「貴方だったら、絶対、教えないだろうと思うからです」
と言うと、桜田は溜息をつき、
「まあ、そうだな」
と言った。
「俺の方がお前に対する愛情が深いからな。
洋人はただ、あいつに気に入られたくて、お前を可愛がっているだけだ。
また、年が近すぎるから、さっきみたいに、お前に手を握られたりすると、ちょっと舞い上がって引き受けてしまったりもする」
と言う桜田に見てたのか、と思った。
インターフォンもあるが、覗き穴も此処にはあるからだ。
しかし、気配の殺し方はさすがだな、と思っていた。
あの洋人が気づかなかったようだから。
まあ、洋人のことだから、気づかないふりをしていただけかもしれないが。
「今回の件は大丈夫だろうが、お前、洋人にあんまり危ない橋を渡らせるなよ。
あいつは、元々は歓楽街でくすぶってた情報屋だが、あんなでも、あいつにも親も居るんだ」
あんなでもってな……。
「お前、そういうところは、母親似だな」
と言われたので、
「お母さんは、別に洋人を利用してるわけじゃないでしょ」
と言ってやると、
「まあ、単なる趣味だと思うが……。
ともかく、若い男が好きだからな」
と眉をひそめる。
「あんないい女じゃなかったら、犯罪だぞ」
と言ってくるので、いや、どんな女でも犯罪だろう、と思ったが、そのかつての被害者に言うのもどうかと思い、黙っていた。
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