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浮気相手のちょっとした秘密

なにか話があるんじゃないですか?

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 那智は遥人の部屋の前に立ち、チャイムを鳴らした。

『勝手に入れ』
と返事がある。

 はいはい、と鍵を出して開けた。

 遥人はリビングに居た。

 普段、一人では見もしないお笑い番組を見ている。

 いや、つけているだけで、見てはいないのかもしれないが。

「ただいま帰りました。
 ご飯、食べました?」
と言うと、振り返らずに、食べた、と言う。

『拘束する旦那の典型だ』
という亮太の言葉を思い出す。

 まあ、確かにな。

 行くな、と言われるより、こうして、元気のない姿を見せられる方がこたえるな。

 なにか行ってはいけないような気分にさせられる、と苦笑いしながら、その場に腰を下ろした。

「専務、お土産です」
と駅で買った可愛いクッキーをテーブルに置くと、

「……子供か」
と言われる。

 まあ、これで機嫌を取ろうと思ったわけではないのだが。

 なんとなく、なにかお土産でも持って帰らないと悪い気がしたからだ。

「専務、なにか話でもあったんじゃないですか?」
と那智は訊く。

 電話で、今日はうちに来いと言ったときの様子がおかしかった気がしたからだ。

「……話というほどのことでもない」
と言う遥人は、今は言う気はないようだった。

 失敗したな、と思う。

 すぐに此処に来ていれば、話してくれたかもしれないのに。

 同期の中での立場より、遥人の方が今は大事だ。

 そのまま、遥人の顔を見つめていると、彼は少し視線をそらしたあとで、
「そうだ」
と言った。

「一度だけすると約束したな」

「は?」

「帰ったら、一度だけ、キスすると言ったろう」

 正面からそう言われ、那智は逃げ腰になってしまう。

「す、すみませんっ。
 あのときは、ちょっと。

 だって、専務が梨花さんばっかり大事にしてるみたいな気がして、腹が立ったから」

 いや、梨花の方が婚約者なのだから当たり前なのだが。

 行こう、と遥人は何故かテレビを消し、立ち上がる。

「此処では駄目だ。
 ちょっと出かけよう」

「は?」
と言いながら、那智は、私、今日、何回、は? と言ったかな、としょうもないことを思っていた。


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