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浮気相手のちょっとした秘密

背後に居るっ

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 会社の地下駐車場に着いた那智は呟く。

「前言撤回、あんたの車は疲れるわ」
「俺もだ」

 二人で互いに文句を言い合いながら、車を降りた。

 すると、ちょうど駐車場で常務と話していた専務と目が合ってしまった。

 ……やばい、と思ったのだが、亮太は素知らぬ顔で、
「おはようございますー」
と二人に頭を下げた。

 慌てて那智も挨拶をする。

「おはよう。
 坂上くん、朝から元気だね。

 今度、また、テニス、付き合ってくださいよ」

 部下にも丁寧な口調の常務は、穏やかに亮太に話しかける。

 さすが、付き合いのいい亮太は、常務にまで気に入られているようだった。

 常務はこちらを見、
「おや、和泉さん。
 坂上くんと付き合ってたの?」
と笑う。

「はい」

 えっ? はい?

 今、勝手に返事したの、誰だっ?
と振り向いたが、もちろん、亮太だった。

「じゃ、今度、お暇なとき、おっしゃってください。
 いつでも付き合います」

 笑顔で言った亮太は、
「行くぞ、那智」
と手を握ってくる。

 常務に頭を下げ、そのまま引っ張られていく。

 ここで強引に振りほどくのもどうかと思ったからだ。

 常務のすぐ側に居る遥人を出来るだけ視界に入れないようにしていた。

 どんな顔をしているのか、怖くて見られないからだ。

 今も背後が振り返れない。

 ゴルゴンが後ろに居るみたいだ、と思った。

 たまたま誰も居なかったエレベーターに乗り、階数ボタンを押したあとで、亮太は手を離し、大きく息をついた。

「……あ~、怖かった」

 専務のことだろう。

「怖いんならやめてよっ。
 なにやってんのよ、もうっ。

 あんたは怖かったで済むけど。

 私は今夜からどうしたらいいのよ」

 なにしてくれてんのよ、もう~っ、と文句を言うと、
「行かなきゃいいじゃねえか、専務のとこに」
と返してくる。

「……それは出来ない」
と言うと、亮太は溜息をついたあとで、那智の顎に触れると、軽く唇にキスしてきた。

 着きますけど、一階にっ!

 すぐさま、亮太は離れた。

 が、口紅がついている。

 慌てて、那智はそれを手で拭った。

 途中で、扉が開く。

「お、おはようございますーっ」
と乗ってきた人たちに、那智は笑顔で言いながら、宙に浮いている手で小蝿でも払う振りをした。

 横に居る亮太がぼそりと、
「お前、めちゃめちゃ冷静だな」
と言ってきた。

 全然、冷静じゃないですけど~っ!?

 こいつ、殺すっ!
 そして、専務も殺すっ!

 今まで専務がしなかったら、私のファーストキスがこんなことにっ。

 いや、知らないうちに親とかにされてそうだけど。

 それでも、記憶にあるうちでは、これが初めてだ。

 何度もしかけてやめた遥人を思い出し、

 もう殴るっ。
 絶対殴るっ。

 梨花さんとはしてたくせに~っ、と半泣きな那智は心の中で絶叫した。


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