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浮気相手のちょっとした秘密

二人きりだが、なんとも思わないのか

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「乗った途端、大欠伸か」

 お疲れだな、と亮太に言われる。

「いやー、やっぱ車って落ち着くね。
 電車だと、外の空間って感じじゃない。

 車だと部屋みたいで。
 車で通勤って楽だろうね」

「渋滞がなけりゃな。
 この辺りは空いてるが。

 だがまあ、確かに、職場を出て、車に乗った瞬間にもうプライベートな空間だから、家に帰った気がするよ」

「私も車にしようかなあ」
と那智は言ったが、やめとけ、と言われる。

「すぐさま、ぶつけそうだ」

「あー、偏見偏見。
 実は私、ぼちぼち運転上手いのよ。

 ちょっと車庫入れとか縦列とかが苦手なだけで」

「それ、上手いって言わないだろ。
 っていうか、この空間が部屋みたいってことは、今、お前は、俺と部屋で二人きりってことだ」

「それが?」

「……そこで、それが? って訊くのが、もうな」
と横目に見てくる。

「いや、俺と部屋に二人きりでも緊張しないってことだな」

 くつろぎまくりじゃねえか、と愚痴られる。

「いいことじゃない。
 緊張するような相手とは長く一緒には居られないわ」

「それ考えたら、俺と梨花は最初から合わなかったんだな。
 いつ、あいつがキレるかと思って、いつもビクビクして、機嫌を窺ってたから」

「それ、付き合ってて楽しいの?
 っていうか、なんでその状態で付き合えるの?」

「だって、梨花、いい女じゃねえか。
 性格はともかくとして」

 おいおい、と思ったが。

 でもまあ、亮太は、少しきついくらいの女が好きなんだろうから、それはそれでいいんだろう、と思う。

「お前は専務と居て、緊張しないのか」

「んー。
 最初は緊張したし、今もときどきするけど。

 でも、一緒に寝てると落ち着くっていうか」

「……なに急にのろけてんだ」

「ああ、違うよ。
 ほんとにただ寝てるだけ」

「専務にとって、お前はマスコットなんだな。
 っていうか、ライナスの毛布?」

 ライナスの毛布とは、それがないと安心できないものの例えだが、そこまでではないような。

「ああいう完璧な人ほど、なにか心に傷があったりするよな」

「傷っていうか……。
 まあ、傷なのかな」
と那智はフロントグラスから、朝の空を見、目をしばたたく。

 赤信号で止まったとき、ふいに亮太が言い出した。

「お前、やっぱり、俺と付き合うか?」
「は?」

「いや、専務となんかややこしいことになってそうだから。
 しかも、発展性がない」

 そう言い切られてしまう。

 ぐっ、と那智はつまった。

 確かに、発展性も明るい未来の欠片もなさそうだ。

 だが、ズバリ指摘されて悔しく、
「亮太、実は単に私と付き合いたいんじゃないの?」
と言ってしまう。

 ふざんけなよ、このボケがっ、と罵られると思っていた。

 だが、亮太は、
「そうかもな」
と言ったあとで、いきなりハンドルから手を離すと、那智にキスしようとした。

「だっ、駄目だってばっ。
 私、ファーストキスもまだなのにっ」
と思わず叫んで、はあ? と呆れたように言われる。

「桜田さんだって、頬にしかしないのにっ」

「誰だ桜田さんってっ。
 専務は何処行ったっ!?」
とわめかれた。



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