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間抜けな部下のそれほどでもない秘密

きっと答えはまだ出ないけど……

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 那智が桜田と別れたあと、街を歩いていると、
「ちょっと」
と何処かで聞いたような声に呼び止められた。

 振り向くと、案の定、梨花が立っていた。

 腕を組み、仁王立ちになっている彼女の周りに、あの友人たちは居なかった。

「貴女、本当に桜田さんの妹?」

 そう訊いてくる。

 さすがにそこまで莫迦ではなかったようだ、と思いながら、
「……違います」
と言っていた。

 桜田の、あっ、こらっ、という顔が浮かんだが、とりあえず知らぬフリをした。

 梨花がもし、桜田に本気なら、こんな嘘はよくないと思ったのだ。

 だが、その場合、遥人はどうなるのだ、とは思うが。

「そう。
 やっぱりね。

 なんとなく似ているから、ほんとに妹かな、と思ったんだけど。

 あのあと、話している二人の様子を見て、違うなと思ったの。

 うちにも兄が居るけど、私に対して、あんな態度を取ることはないから」

「私、昔、桜田さんが好きだったんです」

 訊かれもしないのに、那智は、そんな告白をする。

 梨花が目を見開いた。

「でも、貴女が思ってるような好きとは違いますよ。

 桜田さんが私に幸せになって欲しいと願っているように、私も桜田さんに幸せになって欲しいと思っています。

 私は、桜田さんを幸せにしてくれるような人があの人と一緒になってくれることを望みます」

 それはもう、私の母親ではないかもしれないけれど。

 そう少し寂しく思う。

 そこで、梨花は初めて強気な表情を崩した。

 遥人のことがあるからだろう。

 自分がすぐに答えが出せないように、梨花もまたそうなのかもしれない、と思った。

「それじゃあ」
と軽く頭を下げ、梨花の許を去った。

 さっきから携帯が鳴っている。

 恐らく、桜田ではない。
 遥人だ。

 間がいいような、悪いような、と苦笑して、夜道を歩きながら、電話に出る。

『おい、この出来損ないのシェヘラザードは何処に居るんだ』

 開口一番、そう罵ってくる。

「桜田さんとご飯食べてました。
 この間のロシア料理の店です」

『なに堂々と言ってるんだ、このカピバラは」

「カピバラなのか、シェヘラザードなのかはっきりしてくださいよ」

 そう笑いながら、ビルの隙間の夜空を見上げた。

 ケモノと美女では、ずいぶん違うだろう、と思いながら、
「今度、専務も一緒に行きましょうよ。
 美味しいですよ、あの店」
と言うと、

『一緒にって、お前とか?
 まさか、桜田もか?』
と訊いてくる。

 桜田と三人でか、それもいいかもしれないな、とちょっと思いながら、少しだけ笑ってみせた。

「今日はうちに来られますか?」

 そう自然に訊いていた。

 この先、どうなるかはわからない。

 でも、今は専務の寝顔を見ながら、眠りたい。

 そう思っていた。


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