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上司の秘密

何処まであいつに話せばいいのか

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「早川ー。
 今日、俺、昼早くに抜けるんだけど」

 亮太は隣の席の後輩にキーボードを叩きながら言った。

「了解ですー」

 うまく誤魔化してくれるようだった。
 こういうときはお互い様だからだ。

 早川は高速でテンキーを打ちながら言う。

「誰と出かけるんですかー?」

「那智」

 えっ、と早川の手が止まる。

「マジですかっ。
 ちょっと協力するのやめようかな」

「なに、お前、那智に気があったの?」

「いや、気があるっていうか。
 いいじゃないですか、和泉さん」

「あー、見た目は、おっ、と思うよな。
 でも、性格がなんというか。

 ぼんやり?
 のっそり?

 もったり?」
とかいろいろ言っていると、早川は笑い出す。

「そこがいいんじゃないですか。
 一緒にいると、和みそうで」

「まあ、そうだけど。
 俺はもうちょっといかにも、女って感じの方がタイプだなー」

「ええーっ。
 気がないんなら、僕も一緒に連れてってくださいよー」

 駄目、と言うと、
「やっぱり気があるんじゃないですか」
と言ってくるので、

「他のときならいいけど、今日は駄目だ。
 那智に話があるんだよ」
と言ったあとで、手を止め、椅子に背を預けた。

 ぎしり、と重い筋肉質な身体を受け止め、椅子が音を立てる。

「あー、目が疲れた。
 続き、お前、打ってくれよ」

「もう~、これだから、体育会系の人は。
 どうして、その根性をこういう方面には向けられないんですかね」

「ちょいちょい嫌味言うな、お前も」

 また、あーあ、と伸びをした。

「何処まで話すかなあ……」
と呟く。

 那智は専務が好きなのだろうか。

 一体、どういう付き合いなのかよくわからないが。

 恋人同士なのかと思ったが、那智の態度を見ていると、そういう風には見えない。

 だが、専務があのとき、ドーナツ屋の外から、自分に向けてきた視線はかなり攻撃的だった。

 少し高くなっているガラス張りのドーナツ屋を下から睨み上げてくるような。

「めんどくせー。
 いっそ知らなきゃよかった」

 そう呟きながら、やる気もなく、キーボードを一本の指でぽちぽちと叩く。

「やめてくださいよ~、それ。
 横にパソコン覚えたてのお年寄りがいるみたいなんで」
と早川が苦笑いしていた。


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