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上司の秘密

ベルマーク委員長と厄介な王子様

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「で、私は五年生のそいつに対抗するために、勢いで手を挙げただけだったんですよ。

 そしたら、先生が、やっぱり、委員長は、六年生でって言い出して。

 他に誰も手を挙げてなくて、結局私が……

 ああっ。
 寝ないでくださいよっ」

 笑いながら、寝てしまったらしい遥人を思わず、揺すろうとする。

 いや、寝かしつけるんだったな、この人を、と気づいて、踏みとどまった。

 だが、このまま行ったら、いつも最後まで聞いてもらえないので、毎晩、ベルマークについて語ることになるのだが。

 いいのだろうか、これで。

 この千夜一夜物語、本にすると、偉く短くなってしまうぞ。

 千夜一話物語だ。

 まあ、王様を改心させるんじゃなくて、寝かしつけるのが目的だからいいんだけど。

『シェヘラザードって、王を愛していたんでしょうかね?』

 そんな自分の言葉が、ふと頭をよぎった。

 スタンドの明かりに照らされた遥人の顔を見て呟く。

「あの王様もこの王様も厄介な人だな、ほんと」

 この人の場合は、王様っていうより、王子様かな。

 そんなことを思いながら、那智は布団をかけ直してやった。
 


「今日も帰らなかったのか」
「はい」

 朝目覚めたとき、遥人がそう訊いてきた。

「帰りそびれたんですよ。
 遅くなると、面倒臭くて」

「俺は別に構わないんだが。
 タクシー代も置いておいたろう」

 使わなかったのなら、金を持って帰れと言い出す。

「いりませんって。
 お金受け取ると、ほんとに愛人でもやってるかのような気分になるんで」

「……何度も言うようだが、お前は、此処に話をしに来てるだけだからな」

 少し不満げに言うので、
「膝枕もしてあげてるじゃないですか」
と言うと、段々、態度がでかくなってきた、とかなんとか呟いていたが、そう嫌そうではなかった。

「まあ、金を受け取らないのなら、今度、服でも買ってやろう」

「いや……ますますおかしな感じになるんで、余計な気は使わないでください。
 あ、じゃあ、タクシー代だけくださいよ。

 今日も乗せて帰ってもらっては悪いので、タクシーで戻りますから」

「思うんだが」
「はい」

「最初から泊まるようにしてくればいいんじゃないのか?」

「いや、あのー。
 それだと貴方の不眠症が治るまで、毎晩泊まるようになるので。

 ほぼ此処に住む感じになるんじゃないかと思うんですけど」

「住むか?」

「住みませんよ~っ。
 もうっ」

 なんだかわかんない人だな。
 淡々とそんなこと言ってこないで欲しいと思った。

「心配するな」

 レースのカーテンの向こう、朝の街を見ながら、遥人は呟く。

「そう長い間じゃない」

「もう結婚するからですか?」

「まあ……或る意味な」

 そう言い、遥人は目を閉じる。


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