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上司の秘密

はじめての二人での夕食

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 一度家に帰ったら出てくるの面倒臭いな、と思った那智は、仕事が終わったあと、会社近くの店をブラブラしていた。

 ドーナツ屋で夕食をとりながら、窓際の席で、読みかけのミステリーを読んでいると、誰かが窓を叩く。

 見ると、遥人が立っていた。

 えっ、なんで? とテーブルに置いていたスマホを確認するが、鳴った様子はなかった。

 遥人が入ってくる。

 食べ終わった飲茶セットを見下ろし、
「まさか、それが晩ごはんか」
と言ってくる。

「そうなんですよ。
 食欲がなくて。

 これから、鬼のような上司に痛めつけられるかと思うと」
と言ってみたのだが、遥人は、

「いや、ドーナツ屋で偉くくつろいでいる奴がいる、と思って見てたら、お前だったんだが」
と言う。

 いや……貴方になにを言われるかと思って、緊張してたんですよ、本当に、と思いながら、那智は本を置いた。

 遥人が、自分もここで食べる、と言いだしたので、えっ? と見ると、
「なんだ?」
と遥人が訊いてくる。

「専務、ファストフードとか食べるんですか?」

「一人暮らしだからな。
 結構多いぞ」

「そ、そうなんですか?」

 なにやらイメージと違うんだが、と思っている間に、遥人は那智が頼んだのと同じものを買ってきた。

 もしや、この飲茶セットのラーメンの匂いにつられたとか? と笑うと、また、
「なんだ?」
と問われる。

 だから、仕事以外の場所に、その鋭い目線と追求、持ち込まないでくださいよ、と思いながら、那智は言った。

「それにしても、よくここがわかりましたね」

「言ったろう。

 さっき、所用で出たとき、この前を通ったんだ。
 そしたら、偉くくつろいでる奴がいて、暇でいいことだな、と思ってよく見たら、お前だったんだ。

 まだいるかと思ってきてみた」

 食べはじめる遥人に那智が訊く。

「ところで、ここ、会社から結構近いので、こんなガラス張りのところで一緒に食べてたら、なにか言われませんかね?」

「仕事終わりに、ドーナツ屋に来るやつ、あんまりいないだろ。
 会社付近でみんなが立ち寄ると言ったら、呑み屋かしっかり食事ができるところがほとんどだし。

 それに、おそらくこんな目立つ場所で堂々と会ってる方が怪しまれない」

 まあ、そうか、と那智が思ったとき、栞の挟まった本を見て、遥人が言ってきた。

「つづき、読まないのか?」

「あ、いえ。
 専務が食べてらっしゃるので。

 うちの母親が、人が食べてるときは、テレビ見たり、新聞読んだりするなと言う人だったもんですから」

「それは、お前に似合わない立派なお母さんだな」

「いや、それがそうでもないんですよ。
 部分的にうるさいだけで、放任でしたから。

 あの人、あまり、見かけませんでしたしね、そもそも」
と言うと、チラとこちらを見たが、なにも言わなかった。

「誰もいなくても、食事に集中するのがいいのかもしれませんが。
 今は一人暮らしなので、ついつい、テレビつけて食べちゃうんですよね」

「まあ、俺も褒められたもんじゃないな。
 本読みながら、食べてるし」

「なに読むんですか、専務って」

「いろいろだな。
 特にこだわりはない」
と言うので笑うと、また、なんだ? と言う。

「いえ、家に帰っても書類読んでそうだなと思ったものですから」

「いまどき、うかつに会社のもの外に持ち出せないだろ」

 じゃあ、持ち出せたら、書類読んでるのだろうか、と思った。

 風呂に浸かっても仕事していそうな遥人を思い、少し笑う。

 そんな感じで思ったよりなごやかに食事を終えられた。


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