2 / 60
上司の秘密
はじめての二人での夕食
しおりを挟む一度家に帰ったら出てくるの面倒臭いな、と思った那智は、仕事が終わったあと、会社近くの店をブラブラしていた。
ドーナツ屋で夕食をとりながら、窓際の席で、読みかけのミステリーを読んでいると、誰かが窓を叩く。
見ると、遥人が立っていた。
えっ、なんで? とテーブルに置いていたスマホを確認するが、鳴った様子はなかった。
遥人が入ってくる。
食べ終わった飲茶セットを見下ろし、
「まさか、それが晩ごはんか」
と言ってくる。
「そうなんですよ。
食欲がなくて。
これから、鬼のような上司に痛めつけられるかと思うと」
と言ってみたのだが、遥人は、
「いや、ドーナツ屋で偉くくつろいでいる奴がいる、と思って見てたら、お前だったんだが」
と言う。
いや……貴方になにを言われるかと思って、緊張してたんですよ、本当に、と思いながら、那智は本を置いた。
遥人が、自分もここで食べる、と言いだしたので、えっ? と見ると、
「なんだ?」
と遥人が訊いてくる。
「専務、ファストフードとか食べるんですか?」
「一人暮らしだからな。
結構多いぞ」
「そ、そうなんですか?」
なにやらイメージと違うんだが、と思っている間に、遥人は那智が頼んだのと同じものを買ってきた。
もしや、この飲茶セットのラーメンの匂いにつられたとか? と笑うと、また、
「なんだ?」
と問われる。
だから、仕事以外の場所に、その鋭い目線と追求、持ち込まないでくださいよ、と思いながら、那智は言った。
「それにしても、よくここがわかりましたね」
「言ったろう。
さっき、所用で出たとき、この前を通ったんだ。
そしたら、偉くくつろいでる奴がいて、暇でいいことだな、と思ってよく見たら、お前だったんだ。
まだいるかと思ってきてみた」
食べはじめる遥人に那智が訊く。
「ところで、ここ、会社から結構近いので、こんなガラス張りのところで一緒に食べてたら、なにか言われませんかね?」
「仕事終わりに、ドーナツ屋に来るやつ、あんまりいないだろ。
会社付近でみんなが立ち寄ると言ったら、呑み屋かしっかり食事ができるところがほとんどだし。
それに、おそらくこんな目立つ場所で堂々と会ってる方が怪しまれない」
まあ、そうか、と那智が思ったとき、栞の挟まった本を見て、遥人が言ってきた。
「つづき、読まないのか?」
「あ、いえ。
専務が食べてらっしゃるので。
うちの母親が、人が食べてるときは、テレビ見たり、新聞読んだりするなと言う人だったもんですから」
「それは、お前に似合わない立派なお母さんだな」
「いや、それがそうでもないんですよ。
部分的にうるさいだけで、放任でしたから。
あの人、あまり、見かけませんでしたしね、そもそも」
と言うと、チラとこちらを見たが、なにも言わなかった。
「誰もいなくても、食事に集中するのがいいのかもしれませんが。
今は一人暮らしなので、ついつい、テレビつけて食べちゃうんですよね」
「まあ、俺も褒められたもんじゃないな。
本読みながら、食べてるし」
「なに読むんですか、専務って」
「いろいろだな。
特にこだわりはない」
と言うので笑うと、また、なんだ? と言う。
「いえ、家に帰っても書類読んでそうだなと思ったものですから」
「いまどき、うかつに会社のもの外に持ち出せないだろ」
じゃあ、持ち出せたら、書類読んでるのだろうか、と思った。
風呂に浸かっても仕事していそうな遥人を思い、少し笑う。
そんな感じで思ったよりなごやかに食事を終えられた。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
私にだって幸せになる権利はあるはずです!
風見ゆうみ
恋愛
「お姉さま! お姉さま! シェールは、お姉さまの事が大好きよ! だから、ずーっとずっと一緒にいてね?」
伯爵家に生まれた私、ミュア・ブギンズは、2つ下の妹になぜか執着されていた。
小さい頃は可愛く思えていた妹の執着は大人になっても続き、やっと決まった婚約者の候爵令息まで妹の虜になってしまう。
私を誰とも結婚させたくないシェールの策略が裏目に出て私は婚約破棄され、仮住まいの家から追い出されてしまう。実家にも拒否され、絶望の淵にいた私に手を差し伸べてくれたのは…。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
※話が合わない場合はそっと閉じて下さい。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む
むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」
ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。
「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」
その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。
初めての作品です。
どうぞよろしくお願いします。
本編12話、番外編3話、全15話で完結します。
カクヨムにも投稿しています。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる