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万千湖と駿佑の日常

禁断の恋らしい

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「まあ、丑の刻参りの頭つけてんのもある意味、ヘッドライトだよね」

 昼休み、瑠美が行きたいと言ったので、みんなで行ったランチの店。

 キャンドルの灯りで、そっと万千湖の寝顔を照らそうとした丑の刻参りな駿佑の話が出たとき、綿貫がそう言った。

「ムーディな光が出るヘッドライトならいいかもね」

 ……嫌です。

 そして、何処に売ってるんですか、そんなもの、と思う万千湖は、安江が妙にキョロキョロしているのに気がついた。

「どうしたんですか?」
と訊くと、

「いないじゃないの、イケメン」
と安江は言う。

「瑠美が行きたいって言った店だから、絶対、客か店員にイケメンがいると思ったのに」

「今度は第二月曜にしかいないとかじゃない?」
と綿貫が言って、みんなで、どっと笑ったのだが、瑠美はひとり深刻な顔をしていた。

「どうしたんですか?」
と今度は瑠美に訊くと、瑠美は、

「……実は今、好きになってはいけない人を好きになってしまいそうなの」
と言う。

 禁断の恋っ!?

 好きになってはいけない人って誰っ!?

 既婚者とかっ?
とみんな、ざわめく。

 まさか、課長とかっ? と万千湖は思わず、駿佑を振り向いたが、雁夜が、
「いや~、本人目の前にいるのに、言わないよね~」
と言い、安江が、

「みんなが自分の彼氏を狙ってる気がするって、ある意味幸せよね~」
と呟いていた。

 だって、課長はものすごく格好いいですよっ。

 几帳面で、こうるさくて、ものすごく面倒臭いところもありますが。

 そんなの課長が時折見せてくれるやさしさの前では、なんにもマイナスではないですよっ。

 課長を一目見たら、誰でも課長を好きになるに違いないですっ、
と万千湖は曇り切った目で駿佑を見ながら思っていた。

 そして、幸せなことに、万千湖の目はきっと一生曇っている。

 そんな万千湖の前で、こちらは、ほんとうに表情が曇っている瑠美が、俯きがちに言ってきた。

「以前、この店で相席になった人なんだけど」

 チラと瑠美はカラフルな熱帯魚の水槽を囲んで、ぐるっと円形のカウンターのようになっている場所を見る。

「私がナイフを落としたら、さっと拾ってくれて。
 店員さんを呼んで、代わりのナイフをもらってくれて。

 すみませんって言ったら、いえいえって微笑んで、そのまま食事して出て行ったの。

 で、昨日、この近くのバス停でまたバッタリ会ったんだけど。

 私が、あっ、て顔したら、向こうも覚えててくれたみたいで。

『あのときの……』
 って言って、微笑んでくれて。

 ……出会ったの、それだけなんだけど。
 何度もその人の笑顔を思い出しちゃって」

「恋のはじまりっぽいですね」
と万千湖が言うと、

「そうね。
 万千湖にすら、わかるほどの恋のはじまりっぽい感じね」
と安江が言う。

「その人、既婚者なの?」
と雁夜が訊いた。

 禁断の恋だと言ったからだろう。

「いえ、知らないんですけど。
 指輪はやってなかったですね」

「なにが禁断の恋なの?」
と安江が訊く。

「だって、その人、イケメンじゃなかったのよっ。

 イケメンな人と結婚したら、少々喧嘩しても許せる気がするから、絶対、イケメンと結婚するって思ってたのにっ」

 いや、幾らイケメンでも、腹立つときは腹立ちますよ……と思いながら、万千湖は聞いていた。

「早く、好きにならないようにしなければ……」
と呟く瑠美を見ながら万千湖が言った。

「それはすでに恋なのでは……」

 すると、こくりと頷き、安江が言う。

「そうね。
 万千湖に見抜かれるくらい、完全に恋ね」

 あの、何故、いちいち、私をディスりながらアドバイスするのですか……と思いながら、万千湖は安江を見る。


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