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妖怪、祇園精舎

バレバレな尾行

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「それじゃ、失礼しまーす」

 宿から駅までの客がちょうど居たので乗せていくことになった菜切は、フロントにそう挨拶して、車に戻ろうとした。

「菜切くん」
とフロントに居た新田が話しかけてくる。

「はい?」
と言うと、

「また今日、戻ってくる?」
と新田は訊いてきた。

「え? どうしてですか?」

「いや、もしよかったら、持田さんとこに乗せてって欲しいんだけど。
 まだ見舞いに行ってないから」

「いいですけど。
 あそこ何時まで面会できるかわからないんですよね」

 まあ、また連絡します、と言うと、

「そう、ありがとう」
と新田は微笑む。

 そのまま、何処かへ電話をしていた。

 仕事に戻ったのかな、と思い、菜切は客を待たせないよう、車に向かう。

 発進してしばらくして、それに気づいた。

 あまり街灯のない山の道、ときどき笑いながら、二人で仲良さげに話している老夫婦の後ろ。

 少し離れて、バイクのものらしき光がついてきている。

 最初は麓に降りるんだろうと思って、なんとなく見ていたのだが、他にあまり車を通らない道なので目立つ。

 実は、片方ライトが壊れた車だったりして、などと暇なことを考えている間に、明るい道に出た。

 かなり距離を置いているが、そのバイクには見覚えがあった。

 ……西島俊哉?

 町に行くのかな、と思ったが、何処までも何処までもついてくる。

 駅に行くのだろうか。

 ……バイクで?

 菜切は俊哉のバイクの動きを時折、確認しながら、客を駅で降ろした。

 そのまま、すうっと夜の町に入っていく。

 町といっても、この辺りは、夜は真っ暗だ。

 そのあと、宿の方ではない山の方にハンドルを切っても、俊哉はついてくる。

 やはり、おかしいな、と思った菜切は、少し広くなっているところで、車を止めた。

 離れてついて来ていた俊哉のバイクが蛇行する。

 ええっ? と叫んでいるように遠目でも見えた。

 俊哉は通り過ぎることを選んだようだ。

 こちらに気づかぬふりをして、通り過ぎようとする。

 いや、待って、と菜切は思った。

 他に車が走ってない山道で、いきなりタクシーが脇に避けて止まったら、なんだろう、と思うはずだよね。

 全然、こっち見ないの、変だろうに。

 休憩か、幽霊の客でも乗せようとしていると思われたのだろうか、と苦笑しながら、通り過ぎた俊哉に向かい、挙げた両手を大きく振った。

 俊哉のバイクが急ブレーキを踏む。
 バイクの頭を少しこちらに向けようだった。

 菜切は息を吸い、大きな声で叫ぶ。

「何処行くのー? 俊哉くんっ」


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