上 下
62 / 65
魔王城に危機が訪れようとしています

私を覚えておいでですかっ?

しおりを挟む
  

「エミリ姫っ。
 私を覚えておいでですかっ」

 絨毯が砂地に下りた途端、魔王を突き飛ばす勢いでやってきたその男は、ユーシリヤのサガン王子と名乗った。

「えーと。
 何処かでお会いしましたっけ?」

 姫、と呼ばれるということは、つい、最近の知り合いだよな?
とエミリが思ったとき、サガン王子は言った。

「この間、いきなり、我が城の謁見の間の扉を開けて、あ、という顔をなさり、すぐに消えられたではないですかっ」

 あ~、あのときの、とエミリは思い出す。

 会ったか会わないか、わからないくらいの邂逅だな、それ、と思った。

「あなたの美しさが忘れられず、ずっと思い焦がれておりました」

「そうなの。
 それで、ここまでついて来てしまったの。

 魔王様を倒して、エミリを手に入れたいそうよ」
と横からアイーシャが言う。

 いや、魔王様、ここにいますけど……、と思ったが。

 魔王は人間の王子の言うことなど気にも留めていないようで、物珍しげに宮殿の方を眺めていた。

「あのー、アイーシャさんとサガン王子はどんな関係なんですか?」

 エミリがそう問うと、アイーシャは両の腰に手をやり言う。

「どんな関係もないわ。
 この人が、私が嫁いだ国を滅ぼした縁で一緒にいるだけよ」

 ……いやそれ、どんな縁ですか、と思ったが。

 アイーシャはサガン王子に、一宿一飯の恩義があるという。

「でも、嫁ぎ先を滅ぼしてきたって。
 それ、結構危険な方ではないですかね?」
と呟くエミリに、マーレクが、

「いや、この場に魔王様以上に危険な方はいないと思いますけどね」
と言ったが。

 エミリは、魔王様がこの場で一番、安全な人のような気がしていた。


「ところで、エミリ姫は神の子だと、ここの者たちに聞きましたが。
 どのようなことができるのですか?」

 サガン王子は期待に満ちた目でエミリを見ながら問うてくる。

 いや、どのようなって……。

 なにか私、できたっけな? とエミリは首を捻った。

 そもそも、なんで私、神の子とか言われてんだっけ?

 そう思いながら、エミリは、みなに言った。

「いいえ。
 私は神の子などではありませんし。

 なにもできることなどありません。

 ここにいらっしゃる皆様や、あちらで休みなく働いていらっしゃる皆様の方が、私などより、よほど、できることが多いはずです」

 エミリはこの場にいる重臣たちや、砂漠を行ったり来たりしながら、重い荷物を運んだりしている、かつての仲間たちを見た。

 ――なんという尊いお言葉っ!

 エミリ様っ、とみながエミリに跪く。

 もちろん、魔王とマーレク、アイーシャにセレスティア姫は跪かなかったが……。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...