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エミリ、イケニエになる

早速、生活習慣の違いがっ

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「あのー、部屋も気になるんですが。
 この城は食事とかどうなってるんですかね?」

 ここまでなにも食べずにやってきた。

 ちょっと気になり、お腹の空いていたエミリはそう訊いてみる。

 やはり、そこも魔法でドロンと出すのだろうか。

 だが、ドロンと出したようなものを食べて、栄養になるのだろうかな? と思ったとき、魔王が言った。

「食事か。

 そうか。
 お前は腹が減るのだな」

 ……なんでしょう。
 ものすごく嫌な予感がするのですが、と思いながら、エミリは訊いてみる。

「もしや、魔族はお腹が空かないのですか?」

「いや、そんなこともない。
 人間のような食事をしないだけだ」

「そ、そうか。
 人間を食べるのでしたっけね?」

「食べるわけないだろう。
 生臭いじゃないか。

 いや、食べる奴もいるんだろうが、私は食べないぞ」

「そうなのですか。
 では、私は何故、ここに……」

「だから、お前はイケニエではなく、花嫁だと言っているだろうが。
 そもそも、イケニエにもらっても食べないぞ。

 人間は勝手によく、そういうものを贈りつけてくるらしいが――」

「イエニエ、食べない人に贈ってこられた場合って、どうするんですか?」

 魔王は、うーん、と考え、

「そういうときは、まあ……

 飾っておくんじゃないか? とりあえず」
と適当なことを言う。

「そもそも、我々は魔力で満たされているので、ほとんど腹は減らぬのだ」

 やばいっ。
 もう共同生活を営むうえでの食い違いがっ。

 ってか、魔力で満たされているので、腹は減らないってなんなんですか。

 その魔力は何処から来るんですか。

 光合成とかで生じるのですかっ。

 いや、ここ、日は差してないけどっ、と思ったところで、エミリはハッとする。

「そういえば、お風呂とか、トイレとかっ」

「人間はそんなものも必要なのか。
 見た目は我らと似ているのに、なかなか効率の悪い生き物だな」

 なあ、と魔王はレオと頷き合っている。

 なんでしょう。
 今、人間まるごと侮辱されましたよ……。

「と、とりあえず、私、今、部屋より、畑を作りたい気持ちです」

「畑か。
 そういえば、人は作物を育てるのだったな。

 うむ。
 好きなところに作ってよいぞ」

「ありが……」

 ありがとうございます、と言おうとしたが、エミリは眉をひそめた。

 でも、そっかー。
 畑、私、ひとりで作るのか~。

 作ったことないなー、畑なんて。
 この世界でも、野菜運ぶくらいの仕事しかしてないし。

 前の世界でやった土いじりといえば、せいぜい、学校でもらった朝顔の種を蒔いたくらい。
 しかも、枯らしてるし。

 エミリがそんなことを考えながら、渋い顔をしていると、魔王が慌てる。

 小声で、レオと話し出した。

「この嫁は怒っておるのか?」
「怒ってるんじゃないですかね?」
というような感じの会話をしているようだった。

「わかった。
 エミリよ。

 私が畑を作るのを手伝おう」

 魔王はそんなことを言い出した。

「いえいえ。
 魔王様にそんなことをしていただいては、私、無礼だと斬り殺されてしまうかもしれません」

「いや、大丈夫だ。
 みながお前を無礼者だと殺そうとしても、私が守る」

 やはり、みんなに狙われるんですか、私……。

「それに、私に畑仕事は大変だから、してはならないというのなら、お前もしてはならない。
 お前は、私の妻だからな」

 意外にやさしいな、魔王様。

 何故、人間がひょいと贈ってきた花嫁に、そんなにやさしくしてくださるのですか。

 ……でも、他の人が贈られてきても、こうだったのかなと思うと、ちょっと寂しいような気もするんですが。


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