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エミリ、奴隷生活を楽しむ

こんないい扱い、この世界に来て、初めて受けたんだが

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 兵士たちに連れられていったエミリは大神殿のようにも見える場所に連れて行かれた。

 どうやらそこは神殿ではなく、王宮の離れのようだったが。

 奥には広い岩風呂があり、そこに入れと女官らしき人物に言われた。

 ロバの乳で満たしたという贅沢なその風呂には赤い薔薇まで散らしてある。

 ……なんだろうな。
 こんないい扱い、この世界に来て、初めて受けたんだが。

 おそるおそるエミリはその風呂に入ってみた。

 程よい湯加減だ。

 乳臭いかと思ったが、薔薇のいい香りの方が強い。

 おお、肌がすべすべになった、と思ったら、今度は別の部屋に連れて行かれた。

 そこで数人の女官たちに髪を丁寧にくしけずられる。

 美しく整った髪に良い香りのオイルを塗られている間、大きな貝のパレットのようなものを手にした女官たちに化粧された。

 真っ白におしろいでも塗られるかと思ったが、意外なナチュラルメイクで。

 肌にはなにも塗られず、目に|方鉛鉱〈ほうえんこう》で作ったという黒いアイラインを少し引かれ。

 頬や唇にアルカネットの根からとったという紅い染料を塗られただけだった。

 ちなみに、何故、いちいち化粧品の原材料名がわかっているのかと言うと。

 古代っぽいこの世界の化粧品は危ない気がして、なにかを塗られるたび、訊いてみたからだ。

 一番年配の女官が、めんどくさそうな顔で教えてくれるが。

 聞くたび、エミリは逃げ腰になっていた。

 方鉛鉱……鉛じゃんっ。

 危険っ!

 だが、年配の女官に命じられた若い女官たちに頭をガッチリ固定されてしまい、逃げられなかった。

 青銅のスティックを瞼に押し当てられると、

 毒っ、と身構えていたせいか、より、ひんやりと感じられた。

 次に頬紅と口紅を指で塗られた。

 この赤い色はアルカネット。

 日本でいう、牛舌草うしのしたくさのものらしい。

 アルカネットって……

 確か根に毒がある。

 ……って、今、根から染料を作ったって言った!?

 死ぬじゃんっ。

 アルカネットの花言葉は『あなたが信じられない』。

 いや、なにもかもが信じられないっ。

 毒を塗るとかっ。

 いやいやいやっ。
 化粧で死にたくないんですけど~っ。

 アイ ラブ すっぴん。

 ずっとノーメイクッ。

 ノォォォォッ! とか叫んでいるうちに、離れよりさらに大神殿っぽい巨大な宮殿に連れて行かれ、大広間に引きずり出されていた。


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