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エミリ、奴隷生活を楽しむ

娘、勝負だっ

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 今日も暑い砂漠で作業か。

 だが、運びきった先の建物の中は涼しいので、そこに行きたくてガンガン運ぶ。

 それを見ていた現場監督が、
「うむ。
 あの娘はずいぶんと働き者だな。

 さっきから、動きが機敏なので見ていたが、人の三倍は運んでいるようだ」
と言ってくれていたらしい。

 いや、建物の中に入ったあとは、緩慢かんまんなんですけどね、と苦笑いしながら、エミリは調理場に立ち昇るスープのいい匂いを嗅ぐ。

 おばさんたちに訊いてみた。

「今日の晩ご飯はなんですか?」
 ご飯がここで一番の楽しみだからだ。

「さあ、なんだろうね」
 昼食を用意しながら、彼女らは笑っていた。

「献立表とかないんですか?」

「あるみたいだけどね。
 そこの石板を兵士たちが見て指示してくるから」
とおばさんたちは厨房の入り口を振り返る。

「私たちはそのときそのときに作れと言われたものを作ってるだけさね」
 豪快に笑いながら、恰幅のいいおばちゃんが言う。

 エミリは出ていくとき、壁に立てかけてある何枚かの石板を見た。

 ふうん。
 これか。

 一番上にあるのが今日のメニューのようだ。

 ある程度パターンが決まっていて。
 その日のメニューの石板が一番上、次にあるのが、次の日の、という感じなのかもしれない。

 七枚あるな。
 一週間分か。

 この国の暦も七日で一区切りになっていて、ちゃんとおやすみもある。

 ヒエログリフっぽい文字だな。

 エミリは七枚の石板を見比べてみた。

 よく出てくるこれはたぶん、ビールかパン。

 一日の食事の並び的に、この夜の食事だと思われる部分にだけ、出てくるのがビールかな。

 じゃ、こっちがパンを表しているのか。

 エミリアは日々のメニューと照らし合わせながら、熱心に文字を解読していった。

 単に早くメニューが知りたかったからだ。

 この文字は芋かな。

 芋、芋、芋……

 こっちは人参。

 この料理と料理をつなぐように出てくる記号。

 これとこれを足したセットメニューとか。

 組み合わせでこの料理、的な意味かな。

 組み合わせ。
 カップリング。
 合わせる、かな。

 その象形文字のような形を文字だと認識してから気がついたのだが。

 そういえば、いろんなところに文字が彫ってある。

 主に建物の壁だが。

 エミリは建造物に彫ってある文字まで読みはじめた。

 これは、王様、かな。

 これは男たちの数。

 これは娘……

 娘たち。

 複数形かな?

 ここの奴隷たちの数かな?

 そんな風に日々過ごしていた。



「あーあ、明日は肉が出るといいな、肉」

 夕食後、広い洞穴でみんなで焚き火を囲み、おしゃべりしているとき、筋骨隆々としたおじさんが言った。

「明日の夕食は肉と根菜類の煮込み、魚の丸焼き、それにナツメヤシですよ」

 えっ? とおじさんたちがエミリを見る。

「ちなみに、あさってはで鶏とレンズ豆のスープです」

「なんで、そんなことがわかる?」
と疑わしげにおじさんは訊いてくる。

 だが、おばさんたちは笑い、
「エミリは可愛いから、兵士たちが教えてくれたんじゃないの?」
と言う。

「ほんとうに。
 エミリは色白くて、きめ細やかな肌をして。
 エキゾチックで整った顔をしているわ。

 こんなところにいるのがもったいないくらいねえ」

 そうおばさんたちが褒めてくれた。

 なにかまた、むずがゆくなってきたな、と照れ笑いをしたとき、おじさんが言う。

「ほうほう。
 兵士に聞いたのか」

「いえいえ。
 厨房の石板に書いてある献立を読んだだけですよ」
と言うと、納得しかけたおじさんが目を見開いた。

「お前、文字が読めるのか?
 いや、そんな娘がこんなところにいるはずはないっ」

「最初から読めたわけではないですよ。
 実際の献立と照らし合わせて推察したんです」

 そう説明したが、おじさんは納得いかないようだった。

「そんなことで文字が読めるようになるものか。
 高位の兵士や、王族、貴族、神官しか読めないはずなのに。

 お前、適当なことを言っているだろう」

 偏屈なのはまあいいんだが、無駄に筋骨隆々なのが困るな。

 ばくっ、とか殴られたら、私など、洞穴の外まで吹き飛んでしまいそうだ、と思いながら、おじさんの太い腕を眺めていると、

「よしっ、わかったぞ、娘。
 勝負だっ」
とおじさんは言い出した。

 どうして、この手の体育会系の人は勝負好き……と担任だった体育の先生など思い出しながらエミリは思う。

「明日あさっての分だけだと、まぐれということもある。
 数日、献立を当ててみろ。

 兵士に訊くは、なしだ。

 カイル、お前、ついて見張れ。
 兵士たちにこいつが近づかないよう」

 カイルはこのおじさんの甥らしい。
 何度か話したことがある。

 ひょろりと背が高く、可愛らしい顔をした彼は、おじさんとは対照的に物静かで気の弱そうな青年だった。

 とんだとばっちりで、すみませんね、と苦笑いしながら、カイルを見たが。

 おとなしい彼は視線を合わせただけで、真っ赤になり、俯いてしまった。

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