上 下
2 / 65
エミリ、奴隷生活を楽しむ

あなたは神だわ!

しおりを挟む
 
 給金が出る日は、行商人たちがやってきて、みんなに物を売っているようだった。

 エミリたちの洞穴にも行商人が来た。
 あちこちの床に敷物を広げ、それぞれが商品を並べている。

 みな、しゃがんで楽しげに眺めていた。

 女の子たちは腕輪や指輪などのアクセサリーを買っているようだった。

 妻や恋人への贈り物を探す男たちもそれに混ざって覗いていた。

 その以外の男たちは水タバコや珍しい酒やツマミになりそうな木の実を持ってきた行商人のところにいる。

 エミリはしゃがんでいるみんなの上から、あちこち覗いてみたあとで、雑貨を並べている若い行商人に訊いてみた。

「あのー、本とかないんですか?」

「本?
 そんな高級なものあるわけない」

 浅黒い肌に蒼い瞳、淡い茶色の髪のその男は、エミリに訊く。

「そもそも、お前、本が読めるのか?」
「いえ、文字わからないんですけど」

 だよな、とその男は白い歯を見せて快活に笑った。
 彼は西の方から来た行商人で、ルーカスというらしい。

 結構整った顔をしているので、彼目当てらしき女性たちが、あれはないのか、これはないのか、と盛んに話しかけている。

 いや、お探しの物は後ろでおじいさんが売ってらっしゃるみたいなんですけどね、とエミリは思ったが、彼女たちは、ルーカスの方だけ向いて話していた。

 でも、そう。
 本があっても読めないんだよな~。

 ここの言葉はなんとなく話せるのだが。
 文字がいまいち、わからないのだ。

 女性たちはルーカスと話して満足したらしく、別の行商人のところに行ってしまった。

 ひとりぼんやり残っていたエミリにルーカスが話しかけてくる。

 ルーカスは今までは父親について行商をしていたが、今回からは一人でやるよう任されたのだと言う。

 そういえば、さっき、おばさんたちが、
「お父さんはお元気?」
と話しかけてたな、とエミリが思ったとき、ルーカスが言った。

「ようやく一人前として認められたんだ。
 全部売って帰りたい。

 安くしとくから、お前もなんか買えよ」

 ふうん、と眺めていたエミリは敷物の端に置かれている大きな石のようなものに気がついた。

「これは?」

「それは売り物じゃない。
 敷物の端が巻き上がらないよう置いているだけだ」

 山で拾ったというそれは、ピンク色をした透けるような大きな石だった。

 これ、岩塩じゃ……?

 古代では塩と奴隷を交換するくらい塩は貴重だったらしいが。

 ここは、近くに大きな塩湖や海があるせいか、塩に不自由はしていないようで。
 これが岩塩だったとしても、特に興味はなさそうだった。

「私、これ欲しいな」
「ただの石だぞ」

「でも、綺麗だから」
 いくら? と訊いたら、拾ったものだから、安くしてくれると言う。

 岩塩を抱えて、ルーカスのもとを離れると、女の子たちが寄ってきた。

「エミリ、それなに?」

「綺麗だけど、大きな石ね。
 アクセサリーにはなりそうにないけど、なにするの?」

 みんなは可愛らしいアクセサリーを買ったらしい。
 早速、身につけてみている。

「うん。
 ちょっとやってみたいことがあって」

 エミリはみんなを連れて、小さな寝室のようになっている自分の洞穴へと向かった。

 エミリたちの住居の辺りは砂漠ではなく。
 岩がゴロゴロしている地帯だ。

 石をいくつか拾ってきたエミリは真ん中を空け、小さな井戸のように円形にそれを重ねる。

 その空洞の部分に、一部屋にひとつずつ支給されている、煤の出にくいヤシオイルのテラコッタランプを入れ、火をつけた。

 その上に岩塩の塊を置く。

 淡いピンクの岩塩を通して、やわらかな光が洞穴内に広がった。

 岩塩ランプのようなものだ。

「わあ、素敵」
「なんて美しいの」

「神の光だわ」

 うん、まあ、長時間つけたら、溶けるかもなんだけど……。

「ほんとうに素敵」
「どうして、こんなことを思いつくの?」

「まるで神の光よ。
 エミリ、あなた、神の子なんじゃないの?」

 ここの人たちは感激しやすい。

 過剰に褒められたエミリは、ちょっと申し訳ない気持ちになりながら。

 いえいえ。
 これで私が神の子なら、現代の雑貨屋さんとか、みな神ですよ、と思っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結
ファンタジー
不思議な力を持つ精霊動物とともに生きるテスカ王国。その動物とパートナー契約を結ぶ事ができる精霊適性を持って生まれる事は、貴族にとっては一種のステータス、平民にとっては大きな出世となった。 訳ありの出生であり精霊適性のない主人公のメルは、ある特別な資質を持っていた事から、幼なじみのカインとともに春から王国精霊騎士団の所属となる。 非戦闘員として医務課に所属となったメルに聞こえてくるのは、周囲にふわふわと浮かぶ精霊動物たちの声。適性がないのに何故か声が聞こえ、会話が出来てしまう……それがメルの持つ特別な資質だったのだ。 しかも普通なら近寄りがたい存在なのに、女嫌いで有名な美男子副団長とも、ひょんな事から関わる事が増えてしまい……? 精霊動物たちからは相談事が次々と舞い込んでくるし……適性ゼロだけど、大人しくなんてしていられない! メルのもふもふ騎士団、城下町ライフ!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...