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それぞれの秘密

恐ろしいな、王室

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 未悠が堂端と下に降りると、アドルフたちが待っていた。

「どうだった?」
とアドルフが訊いてくる。

「いや……なんだか話が不思議な方向に。
 詳しいことをご存知な方に直接話を聞いてみたいかな、と思うんですが」

 他にも人が居るので、未悠は、そう曖昧にアドルフに言った。

「直接、話を聞くって何処かに行くのか?」
とアドルフの側に居たリコが訊いてくる。

「そうですね。
 大神殿とか行ってみたいんですけどね……」

 巫女は亡くなったようだが、新しい巫女が誕生しているはずだ。

 彼女は、王族の双子に関して、前の巫女からなにか聞いているかもしれない、

 そんなことを考えている未悠の周りに、みんながワラワラと寄ってきた。

「旅かっ、未悠っ。
 旅に出るのかっ?」
とリチャードが叫び、

「旅に出るのですねっ」
とヤンがわくわくしながら言い、

「旅に出るんだなっ。
 今度は私も行くぞっ」
とシリオが言った。

 みな色めき立っている。

 そんな中、ひとり冷静な男が、
「待ってください。
 全員で行かないでください。

 城の者たちが困ります」
と止めに入った。

 ラドミールだ。

 つまらん奴だとみなに罵られていたが、今回ばかりはラドミールが正しい。

 アドルフにシリオにヤン。

 アドルフの代わりに客の相手をしてくれたりするリコまで行こうとしている。

 それに、リチャードたちが大神殿に行ったら、大変な騒ぎを起こしそうな予感がしているのだろう。

 そこに、話を聞きつけたタモンまでが。

「そういえば、長くこの国を離れていないから、私も行ってみようかな」

 などと言い出した。

 いやいやいや。
 貴方、長くこの国を出ていないとかじゃなくて、長く寝てただけですよね……?
と思う未悠の前で、ラドミールはとりあえず、手近に居たシリオにケチをつけ始めた。

「シリオ様、貴方まで行くことないでしょう」

「なんでだ。
 私は未悠についていく。

 すっかり忘れていたが、私は未悠の後見人だぞ」

 すっかり忘れてたんですよね……。

「いや、俺が行くから、シリオは此処に残ってくれ」
とアドルフがそんなシリオを遮る。

「王位継承者が二人も危ない目に遭ったら、いざというとき、まずいだろう」

 いや、まず、お前が行くことがまずいだろう、と思いながら、未悠は言った。

「王子、すみませんが、残ってください」

 なにっ? とアドルフが振り向く。

「王子があまり国を離れるのはどうかと思いますし。
 誰よりも貴方になにかあったら困りますから」

「単に、国のことを考えての発言だとしても、お前のその言葉は嬉しいが――」

 そこで、アドルフは少し考え、
「シャチョーが居たらな。
 あの男を影武者に使えるのに」
と言い出した。

 いや、どう考えても、貴方の方が影武者にされそうなんですけど。

 あの老獪ろうかいな社長の前では、純粋な王子など、赤子に等しい。

 簡単にちょろまかされるに違いない。

「そういえば、私には、ちょうど影武者が居るぞ」
と腕を組んで立つシリオが言い出した。

 まさか、でも、もしや、でもなく。

 当然のように、堂端さんのことだろう、と未悠は思った。

 堂端は眉をひそめ、
「俺も旅に出たいんだが……」
と小さく呟いていた。

 っていうか、ちょっと話を聞きに行きたいなーと言っただけなのに、もう行かなければ話がおさまらない感じになっているのだが――

と思いながら、未悠は、

「あのー」
とみなに呼びかけてみた。

「みなさん、なにやらワクワクされているようですが、危ない旅路かどうかはわかりませんよ。

 大神殿への道って、一般人も参拝参詣する道なんじゃないんですか?」

 そう言いながら、ホールの隅で、素振りを始めているリチャードたちを見たが、もちろん聞いてはいない。

「危なくないのなら、俺も行っていいだろう」
とアドルフが言ってきた。

「そうだ。
 俺は王子として、大神殿を視察に行くことにしよう。

 リコ、客が訪ねてきたら、相手を頼む」

「なんでだ。
 此処はお前の城だろ」

「お前の方が客のあしらいが上手い」

 まあ、それは確かに、と思っていると、上から侍女を従え、降りてきたユーリアが、
「待ちなさい、未悠。
 城を離れるのなら、式をしてから行きなさいっ」
と言ってきた。




 城を離れるのなら、結婚していけ、と言い出すユーリアに、やってきたエリザベートが、
「いや、王子妃がウロウロしたらまずいでしょう」
と彼女を見上げ、言っていた。

 だが、腐っても王妃。
 ユーリアは親友であり、忠実なる家臣であるエリザベートの話さえ、聞いていない。

「未悠。
 式をして、子どもを産んでから行きなさい。

 とりあえず、後継ぎを作れば国は安泰です。

 子どもを置いていくのなら、アドルフも連れていっていいわ。
 お前のボディガードに連れていきなさい」

 なにやらもう、王位継承権一位が、まだ、出来ても産まれてもいない孫に移った感じだ。

 おそろしいな、王室、と思う未悠に、ユーリアが言う。

「大丈夫です。
 お前たちの子どもは、私がしっかり育てますから」

 いやいやいや。
 王妃様が育てたら、また、ぼんやりした感じの子どもになるんじゃないですかね……?
と未悠は横に居るアドルフを見上げた。

「あの、ユーリア……王妃様」
とエリザベートがユーリアを見上げて言う。

「今回の旅は大神殿へ向かうようですし。
 特に問題ないのでは?

 大神殿への道は安全で、宿も整備されています。

 未悠も王族になることですし。
 一度、神殿に参拝して、巫女様にご挨拶しておくのもよいのではないかと」

「それもそうねえ」
とユーリアは少し考えを変えたようだった。

「では、とりあえず、未悠とそこらの者共で行ってきなさい。
 そこの僧侶のような頭の男、未悠を頼みますよ」

 ピンポイントでリチャードを指名し、ユーリアは言った。

 一番強そうだったからだろう。

「ありがたき幸せ」
とリチャードは立派な騎士であるかのようにユーリアが居る階段下にひざまずいて礼をする。

 ……やはり、本物の将軍より貫禄があるな。

 戦闘経験が多いからかな、と未悠が眺めていると、ユーリアは、
「ですが、次期王子妃の側に居るのに、なんの位もないのはいけませんね。
 お前に、なにがしかの位を授けましょう」
と言い出した。

 ええっ? と物陰から成り行きを見守っていた将軍が不安そうにユーリアを見る。

 だが、リチャードは、
「いえ、私は街のならず者。
 位などいただけません」
と深く頭を下げたまま言った。

「なんと。
 たいした男ですね」
とエリザベートが言う。

 ユーリアも深く頷き、
「みなが高い地位を求めて、私に擦り寄ろうとするのに、感心なことです」
と言った。

 柱の陰の将軍がぎくりとしていた。

「よろしい。
 無事に未悠を連れて帰った暁には、お前たちに褒賞金をあげましょう」

「ありがたき幸せ」
とリチャードと、いつの間にか――

 というか、おそらく、褒賞金の辺りから、リチャードの後ろにひざまずいていた、その一味は言った。

 しかし、いつの間にやら、急いで旅に出ることになってるが、と未悠が苦笑いしていると、横に居たアドルフが、

「未悠、ちょっと来い」
と低い声で言ってきた。



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