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王様を訪ねていきました
なんかこの人、また、訳のわからないこと言い出したな~
しおりを挟む……なんかこの人、また、訳のわからないこと言い出したな~。
アドルフに手を握られたまま、未悠は思う。
だが、王子の身でありながら、こんなところまで来てくれたことは、嬉しくないこともないこともないこともない……。
なので、人前で手を握られ、恥ずかしかったが、振りほどかずにじっとしていると、
「恋と言えば――」
とリコが語り出す。
「昔、私にも縁談があったな」
「いや、坊ちゃん、今もありますよ」
とリコの両脇の男たちが言っている。
だから、そろそろ帰りましょうよーと。
「いや、こいつらの国の女と縁談があったな、と思っただけだ。
えーと、確か、フロリナとかいう……」
アドルフが一瞬、小首を傾げたあとで、
「……フロリナ。
そういえば、アデリナの従姉にそんな名前のが居たな」
と未悠を見て言う。
お前は何者だ、とリコに訊いていた。
「何処の国の勇者だ」
いや……だから、勇者じゃないですよ、と思いながら、男の人って勇者が好きなのかな。
女はそう興味がないんだが、と思っていると、アドルフがこちらを振り向いて言う。
「国の話で思い出したが、未悠。
お前、此処に来るとき、塔に寄ったそうだが。
あそこで、灯りをつけっぱなしにしなかったか?」
だが、未悠は、いや、そもそもあそこ、灯りついたんですか? と思っていた。
電気じゃないので、そう簡単につけたり消したりできるわけではないから、火をつけたら覚えていそうなものだが、記憶にない。
未悠はリコを振り向く。
リコも首を振った。
「いえ、知りませんが」
タモンが城に戻ったのだろうか、と思ったとき、イラークがアドルフに、
「ところで、お前も此処に泊まるのか?」
と訊いていた。
「もう、こいつらで部屋は満杯なんだが」
と親指で、リチャードたちを指差す。
宿代を払わせて、客にするつもりのようだった。
「いや、部屋はなくとも構わぬ。
私は未悠と同じ部屋で……」
「大丈夫ですっ。
私かこの人、どちらかが此処で寝ますからっ」
と未悠は食堂を指差す。
……お前を此処に寝させるわけないから、俺か……?
という顔で、アドルフがこちらを見た。
「じゃあ、俺も此処に泊まってやろう。
王子、雑魚寝しようじゃないか」
とリコが言い出す。
「嫌だ」
とアドルフが言い、二人で揉め始めた。
騒がしい宿だなあ。
近所迷惑この上ないが、と思いながら、未悠は席に座り、また呑み始める。
「ほらよ」
と座ると自動的に出てくる仕掛けか? という勢いで、イラークが新しいツマミを置いてくれる。
……美味しい。
いい宿だ、と未悠は、ゲソ天と香草のようなものを口にした。
そんなこんなで、一晩中もめていたので、塔に灯りがついていたという話をうっかりそのまま忘れてしまった。
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