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……帰って来てしまいました
……泣きますよ
しおりを挟む「……なんだって?」
と未悠の言葉に、アドルフは訊き返してきた。
未悠はアドルフを間近に見上げて言う。
「お妃様が直接、王様に訊いても、真実はわからないと思います」
はい。
私、他所で浮気して子どもを作ってまいりましたとペラッと白状する男がこの世に居るとは思えない。
「私がお会いして確かめてまいります。
真実、私が王の娘であるならば、王も私には本当のことを話すでしょう」
未悠、とすぐにでも出て行きそうな未悠の腕をつかみ、アドルフは呼び止める。
「待て。
私となにもないまま行くな」
……どうなんですかね、このお兄さんは。
いや、本当に兄だかは知らないが――。
「途中で野盗にでも襲われたらどうする?
こんなことなら、先に私に襲われておけばよかったと後悔するのではないか?」
そんな得体の知れない後悔はしないと思いますね……と思いながらも未悠は彼を振り返った。
王子という恵まれすぎた立場に生まれ育ったせいかもしれないが。
本当に言葉の不器用な人だな、と。
さっきから、一人称が私になってるし。
感情でしゃべっているように見えて、そうでもないのかもれしないな、と思う。
冷静になってみても、なにもいい案が浮かばず、訳のわからないことを言っているのだろう。
困った次期王様だ。
この国は大丈夫か? と思いながら、未悠は、ぽんぽんとアドルフの腕を叩く。
「大丈夫です。
なんとかなります」
社長に自分がお前の兄かもしれないと言われてショックを受けたばかりなので、この手の衝撃にはちょっと耐性があった。
……いや、何故か今回の方が衝撃が強いような気はしているのだが。
「未悠、必ずしも真実を確かめなければならないということはないのだぞ」
と事勿れ主義的なことを言ってくるアドルフに、
「そうなんですけど。
一生、もやっとしたまま生きていくのも嫌なので。
アドルフ様」
そう呼びかけたあと、未悠は軽くアドルフに口づけた。
少し赤くなり、言う。
「……こういうことを自分からするのは初めてです。
だから、おとなしくしててください」
正直、まだ、本当に彼のことが好きなのかはわからないが、今、もっとも気になる人であるのは確かだ。
「必ず、帰ります」
と言ったあとで、未悠は小首を傾げ、
「こういうセリフはよくないですよね」
と呟いた。
「我々の世界では、死亡フラグが立つって言うんですよ」
「なんだそれは?」
と問われ、
「必ず帰るとか、帰ったら結婚しようとか言う人間は死ぬ確率が高いんです」
と答える。
いや、ドラマやゲームの中での話だが、と思いながらそう言うと、
「わかった」
とアドルフは頷いた。
未悠の手を取り言ってくる。
「未悠、帰ってくるな」
いや、それはちょっと……。
「二度と顔も見たくない」
本心でないとわかっていても、結構傷つきますよ。
「お前のことなんか愛してないから……。
絶対に、私の許へは戻ってくるな」
そう言いながら、アドルフは未悠の背中に手を回し、抱き締める。
いや、ちょっとそれは……泣きますよ。
違う意味で、と思っている未悠の耳許で、アドルフの声が囁いた。
「生まれてから今までで、一番お前が嫌いだ」
そう言って、さっきの自分の、激突か!? というようなキスではなく。
本当にやさしく、そっとキスしてきた。
離れたあとで、自分を見つめ、アドルフは言う。
「未悠……。
本当に二度と顔を見せるなよ」
いや、真顔で言われると、ほんっと、傷つくので、その辺でやめてください……と思っていた。
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