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……帰って来てしまいました

余計なことを言いやがったタモン様は何処です?

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「何故、お前を好きだと思った瞬間に、別の娘を押し付けられるのだ」

「いや、私を好きだって言うのが間違いなんじゃないですかね?」

 シリオの言葉に、余計なことを言いやがったタモン様は何処です? と未悠は辺りを見回す。

 小さな広間に数人が溜まっていた。

 タモンの姿はない。

 面倒事を嫌って逃げているのかもしれないと未悠は思った。

「いいえ、間違いなのは、この会話を私の前で繰り広げていることですわ」
とアデリナが言ってくる。

「いやー、陰で、ヒソヒソ相談するの、好きじゃないから」
と未悠が言うと、

「世の中には秘めておいた方がいいこともありましてよ、未悠」
とアデリナは言う。

「それにしても、屈辱ですわ。
 シリオ様まで、私より、未悠を選ぶだなんて。

 未悠とは、いいお友だちですけど。
 未悠の何処がそんなにいいのかしら?」

 ……アデリナ。
 シーラより更に毒舌のような気が……と思いながら未悠は苦笑いしていた。

 なんとなく、アデリナとシリオが話し始めたので、それを聞きながら、未悠はよそ事を考えていた。

 それにしても、何故、シリオが指をパチンとやっただけで飛んだのだろうか。

 シリオに言ったら、
「愛だろう」
と阿呆なことを言っていたが。

「王子」
と離れた位置で自分たちのやり取りを見ていたアドルフを呼ぶ。

「王子は、パチンとやってみましたか?」

 そう指を鳴らす真似だけして、未悠が問うと、アドルフは赤くなる。

「……どうだろうな」
と誤魔化すように言ってくるアドルフに、顔を近づけ、

「パチンってやりましたか? 王子」
ともう一度、訊いてみた。

 アドルフは後退しながら、
「……やって……
 やってないとは言わないが」
と曖昧なことを言ってくる。

 未悠が戻ってこないかと思い、やってみたと言うのが恥ずかしいのだろう。

「ありがとうございます」
と言いながら、それでも戻って来られなかったわけだな、と未悠は思った。

 アドルフの顔を間近に見たまま、
「やはり、もしかして……」
と未悠は呟く。

 考え事を始めた未悠にとっては、アドルフの顔はそこにあっても、壁や黒板と変わりなく、ただ、そこにあるから見つめていただけなのだが。

 アドルフはそのまま後退していった。

「あまり近寄るな、未悠」
と赤くなりながら。

 それを見ながら、未悠は、……この人、こういうところが可愛いんだよなーと思っていた。

「ほう。
 意外に王子は純情ですな」

「そうなんですよ。
 ガンガン来るかと思いきや、急に照れてみせたりして」

「乙女心を鷲づかみですな」
と相槌を打ってくる声に振り向いた。

 ……待て、誰だ? と振り向くと、ガンビオだった。

 いきなり現れたイカツイおっさんに、うわっ、と声を上げてしまう。

「い、いつから居らっしゃいました? ガンビオ様っ」
と未悠が訊くと、ガンビオは、

「わたくし、そこで調べ物をしておりましたら、皆様が入って参られまして」
と後ろの書棚を指差した。

 そ、そうでしたか。

 それは失礼、と先客だったらしいガンビオに謝ったあとで思う。

 そう。

 こちらの世界に戻ってから、ずっと気になっていたのだ。

 何故、あのとき、自分が飛んだのか。



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