上 下
40 / 127
お妃様に会いに行きます

酒場の娘と聞いていたが……

しおりを挟む


 王妃が滞在しているのは、アドルフが住んでいる城より小振りな白いお城だった。

 王族の人間がゆっくりしたいときに使う、別荘のようなものらしい。

 お城の周りには堀があり、跳ね橋があった。

 これはこれで守りが堅そうだ。

 今、王妃が居るように、なにかあったときに、女性たちを避難させておく場所なのかもしれないと思った。

 王室の紋章の入った馬車は止められることなく橋を通る。

 涼やかな水の気配が馬車に乗っていても伝わってきた。

 しかし、姑さんか、と未悠はまだ見ぬ王妃はどんな人なのだろうな、といろいろと思い浮かべてみていた。

 本当に結婚するかどうかもわからないので、本当に姑になるかどうかもわからない。

 だから、姑との初対面としては、少し気楽なような気もしていた。




「初めまして、未悠と申します」

 アドルフに連れられ現れた娘が、自分の前で優雅にお辞儀をする。

 ユーリアは嫁となる、未悠という娘を観察していた。

 酒場の娘と聞いていたが、品があるな、と思う。

 シリオが見立てたとかいうドレスの雰囲気は柔らかく、美しくスタイルの良いその娘を更に引き立てて見せていた。

 息子を産んで以来、どんな娘が嫁になるのかと、たまに想像してみてはいたのだが……。

 なんだか予想の斜め上を来たな、とユーリアは思っていた。

 恋愛に興味などなさそうなアドルフのことだ。

 誰かに押し切られて、あの目から鼻に抜けたような、さとすぎて扱いの難しいアデリナか。

 権力欲の強い父親を持つシーラ辺りをつかまされてくるのではないかと思っていたのだが――。

 未悠の横で沈黙しているアドルフに未悠は、
「どうしたんですか。
 早く訊いてください」
と小声でなにやら急かしている。

「今かっ?」
 空気読めっ、とアドルフが未悠に言っている。

「ちょっと歓談して、様子を伺って、人気のないところで、そっと切り出すものではないのか」

「そんなこと考えてたから今まで訊けなかったんじゃないですか。
 過去のことは追求しなくていいんですよ。

 誰にでもいろいろあるものなんですから。
 自分が誰の子なのかだけ、さりげなく伺ってください」

「どうさりげなく伺えというんだ。
 この状況でっ」

「今訊いても大丈夫ですよっ。
 この城には、お妃様が気を許されたものしか居ないはずです」

 未悠はそう言い切る。

 それはそうだ。
 人々の前に王妃として居ることに疲れたときに、こうして、別荘地を回っているのだから。

「空気を読んで、先延ばしにしてってやってるうちに、此処まで来ちゃったんじゃないですか。

 過去をすっきりさせ、新しい未来をつむぎ出していきましょうっ。

 いや、私が一緒に紡ぐかどうかはわからないですけど」

 未悠は此処に来たときの勢いが消えないうちにと早口にアドルフを説得しようとしていたが、
「どうしたいんだ、お前は……」
と言われていた。

 確かに。

 嫁になる予定がないのなら、アドルフが過去を吹っ切ろうとどうしようと、どうでもいいことではないか。

 単なる世話焼きなのか。

 なんらかの理由により、アドルフが好きだと認めたくないだけなのか。

 よくわからない娘だ。

 二人の会話を聞きながら、ユーリアは思っていた。

 親だと安定した未来の見える相手しか選ばないからと、本人に選ばせたのだが。

 ……こんなに未来が見えてこなくて大丈夫なのだろうか。

 いささか不安になってきたな、と思いながら、息子たちを眺めていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

覚醒者~特別ランクの私は恋愛の好きが分からない!~

琴葉悠
恋愛
とある「存在」が統べる世界。 人々は「存在」に見守られながら、発展していった。 発展していく中で、人の中に特別な力を持つ者が洗われるようになった。 それを、人は「覚醒者」と呼び、畏怖する一方でその力に頼るようになっていった。 これはそんな世界で「覚醒者」となった少女の物語── とある事件で覚醒者のSランクに覚醒したカナタ・アオイは仕事にてんてこ舞い! そんな彼女は、友人の恋愛トラブルに巻き込まれ続けた所為か、それとも元々の気質か恋愛感情での好きという感情がわからないのが人とは違う所。 それ以外は至って普通の女子高生だった。 覚醒者になって一癖も二癖もある覚醒者達と出会い、本人が知らぬまに惚れられるという状態に。 そんな彼女の明日はどうなる⁈

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ひとりぼっちになった王女が辿り着いた先は、隣国の✕✕との溺愛婚でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
側妃を母にもつ王女クラーラは、正妃に命を狙われていると分かり、父である国王陛下の手によって王城から逃がされる。隠れた先の修道院で迎えがくるのを待っていたが、数年後、もたらされたのは頼りの綱だった国王陛下の訃報だった。「これからどうしたらいいの?」ひとりぼっちになってしまったクラーラは、見習いシスターとして生きる覚悟をする。そんなある日、クラーラのつくるスープの香りにつられ、身なりの良い青年が修道院を訪ねて来た。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...