35 / 127
悪魔の城に行きました
大きな桃がドンブラコー ドンブラコ
しおりを挟む「どういう人だったって……
そうですね。
とりあえず、顔はアドルフ様、そっくりでしたよ」
城の廊下の真ん中でこんな話するのもどうなんだ、と思いながらも未悠は話していた。
「でも、アドルフ様の方がちょっと若いのか、若造って感じの顔ですけど」
さっきのエリザベートの言葉が頭に残っていて、うっかりそう言ってしまう。
す、すみません、と苦笑いした。
腕を組み、目を閉じたアドルフは渋い顔をしている。
「でも、実は歳は同じくらいなのかもしれませんね。
社長は苦労してるみたいなので、人生経験の差が顔に出てるのかも。
あっ、すみません」
「……お前、すみませんというたび、ドツボにはまってってる気がするが」
そうアドルフではなく、シリオが文句を言ってきた。
未悠は、いや、すみません、とまた言いそうになり、苦笑いして誤魔化す。
腕を組み、目を閉じて話を聞きながら、アドルフは思っていた。
なんという恐ろしい話を振るんだ、シリオ……。
ずっと避けてきた話題だった。
自分がこだわらないのなら、既にどうでもいい感じもするおのれの出生の秘密などより、余程怖い。
腕を組んでいるのも、目を閉じているのも、斜に構えているからではない。
腕を組んでいるのは自衛。
目を閉じているのは外界からの刺激の遮断。
できるだけ、衝撃を受けないようにしていた。
……今、若造と言われてしまったしな。
どんな話を聞いても、ビビらず、どっしり構えたところを見せなければ、と思っていた。
だが――
「私が社長と出会ったのは――」
ムカシ、ムカシ、アルトコロニ
「会社の面接を受けたときなんですけど」
オジイサント オバアサンガ
「うわ、すごい男前だけど、癇にさわる感じの人がいるっ、と思ったのが、うちの社長だったんです」
鬼退治ニ 行キマシター。
どうしたことだ。
未悠の告白を聞いていると、子どもの頃、眠る前に乳母から聞いた話が一緒に聞こえてくるんだが……。
現実逃避か?
「お前、それ、ほんとに好きだったのか?」
とシリオが言い、
「いやー、わかりませんけど。
でも、ともかく、気になる顔だったんですよ」
と未悠が答えていた。
オジイサント オバアサンハ
鬼カラ 奪ッタ 宝物ヲ 持チ帰リ
「それで、その社長とはなにかあったのか」
鬼ヲ桃ニ埋メテ
「言ったじゃないですか」
ドンブラコー
ドンブラコ
ドンブラコー
ドンブラコ
鬼が長く、一級河川をくだっているところで、
「王子、聞いてます?」
と未悠が言ってきた。
「……聞いてるぞ」
そう言いながら、いや、聞いてはいない、とアドルフは思っていた。
未悠の話を聞いていると、それが脳に入ってくるのを防ぐように、勝手に乳母の故郷の話とかいう昔話が頭の中で再生される。
そして、特に聞きにたくないところに差しかかると、話が破綻していくのだ。
都でお姫様に出会った鬼が、打ち出の小槌で大きくしてもらい。
実は自分を育てだおじいさんとおばあさんこそが、かつて、自分を退治し、宝物を奪った人物だったと気づいて、おじいさんに向かい、剣を構えたところで、シリオが、
「そんなの好きなうちに入るか。
っていうか、それ、フラれて当然だぞっ」
と叫んだので、正気に返った。
「いやいやいや。
それに、社長。
取引先の娘さんと結婚するって言い出したんですよーっ」
「俺でも言うわっ、莫迦者っ」
と二人が揉め始めたので、どんな話だか気になったのだが、聞いていると言った手前、今の話、なんでしたっけ? とは訊き返せない。
ヤンまでが、
「それは未悠様が悪いと思います。
男は不安になりますよ」
と未悠に意見していて、余計に気になったのだが。
男たちの主張に追い詰められ、動揺した未悠が、
「そんなことないですよ。
ねえ、王子」
と助けを求めるように腕をつかんできたのだが、話の前後がわからないので、なんと答えていいのかわからない。
「……そうだな」
とうっかりな返事をしてしまい、胡散臭そうにこちらを見たシリオが、
「ほんとですか? 王子。
じゃあ、王子は式が終わるまで、未悠には手を出さないでくださいよ」
と言い出した。
……待て。
今のはなんの話だったんだ? と思ったが、シリオが、
「ほら、お前の社長と顔が同じでも、王子は人間としての器が違うのだ。
そんな俗物的な男のことは忘れて、王子と結婚してしまえ」
と話をまとめ始めた。
えー、と言いながらも、未悠がチラと窺うようにこちらを見る。
結論的には悪くない。
悪くはないが、シリオよ。
……俺は俗物だ。
2
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる